夢のような「時代の記録」
★★★★★
料理本と思って買うと「しまった」と後悔してしまう本かも知れません。
これは今は亡き湯木貞一氏に辻調理師専門学校の創立者である辻静雄氏がインタビューした対談録です。しかし、その内容は明治・大正の今は失われた古き良き日本の記録でもあります。あの「なだ万」がまだ関西に拠点を置き、多くの旦那衆が湯木氏のような才能を見いだし無償の投資をした、今の日本にはもう望めない「夢の世界」の記録なのです。辻氏が湯木氏をヨーロッパ武者修行に誘ったとき、当時の関西電力会長だった芦原義重氏が「もし飛行機が墜落したら、日本の貴重な才能が失われてしまう」と大反対したとか、今では考えられない話が満載です。掲載されている料理写真も流石はあの入江泰吉の手による物で「素晴らしい」の一言です。
この本が書かれたのはバブル直前の’83ですが、もうこの本に書かれたようなたった20年前の世界ですら日本で再現することは不可能なのではないでしょうか。
関西食文化の貴重な記録として興味深い本です。