食糧危機(コメ問題)に警鐘
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この本は89年に刊行され、今回岩波書店で文庫化するに際し、「生キ残レ 少年少女。」が書き下ろし、追補された。野坂さんは現在身体が不自由なため口述筆記によったという。
前書きの一節に次の文がある。
引用開始<「生キ残レ 少年少女。」というのは、「おコメのTVコマーシャル」の制作の時に作ったコピーである。この言葉の中には、「二度と飢えた子供の顔はみたくない」という、ぼくなりの気持ちが入っている。(中略)経済性だけを考えている人に生命の綱をまかせている日本がいかに危なっかしいか、(中略)子は飢えになき、老は寒さに凍え、人は食いものを奪い合う畜生と化す。ぼくは、本当に、戦後のあの姿を、二度とふたたびみたくはないのだ。>引用終り
原稿の初出は“バブル”ピークの時期だ。地価が高騰し世間がバブルに浮かれる中で、野坂さんはコメ問題を訴えながら、農地と密接に関連する住宅問題にも痛烈な批判を加えていたのだ。
わが国の食料自給率は極めて低くなってしまった。1961年に75%もあった穀物自給率は、2003年には27%にまで落ち込んだ。世界で、食料の囲い込みがおきつつある今こそ、多くの方に読んでいただきたい一冊である。