まずはボブ・ディラン自身による4曲を聴いてみよう。怒気をはらんだニュー・ヴァージョンとして生まれ変わった「Cold Irons Bound」と、驚くほど達者なツアー・バンドを加えての「Down in the Flood」に注目だ。次は重量級ゴスペル。シャーリー・シーザーは「Gotta Serve Somebody」を絶唱し、ディキシー・ハミングバーズは「City of Gold」で心洗われるようなカントリー・フォークを披露する。だが、これらやロス・ロボス、グレイトフル・デッドによるトラックは単なるウォーミング・アップだ。ここからCDは一段と見事な第3部へと突入する――世界各地のさまざまな知られざるアーティストたちによるディランのカヴァー集だ。真心ブラザーズが日本語で歌った「My Back Pages」あり、アルティコロ31がイタリア語のヒップ・ホップとしてリメイクした「Like a Rolling Stone」(ここでは「Come Una Pietra Scalciata」!)あり、トルコのポップ・スター、セルタブ・エレネルによるストリングスを駆使した魅力的な「One More Cup of Coffee」あり、スウェーデン人歌手ソフィー・セルマーニの優しくさり気ない「Most of the Time」ありといった内容である。
こういったクレイジーな多言語的アプローチは、奇妙にもディランの天才性を浮き彫りにしている。不愉快なダイアローグ(2回挿入されるが、このアルバムにとっては玉にキズ)や映画本編のぜい弱な芸術性よりもディランにふさわしいといえるだろう。(Keith Moerer, Amazon.com)