社務ねこオトラ(上) 五十景五十首
価格: ¥0
岩手県遠野市鎮座「遠野郷八幡宮」の飼い猫オトラの写真集がついに登場。
50枚の写真に一つずつ和歌とその解説を添えて、オトラの魅力を引き立たせるように編集。
どうぞ皆さん手に取ってみて下さい。
【和歌一覧】
(上)
主をば 守らんと座す その姿 いとも厳しき 狛猫ならん
凛凛しとも 猛々しきとも 厳しとも 言い表すこと 能わざるなり
堂々たる 体躯をゆらし 身繕い ふと首もたげん 朝日浴びんと
両腕で 顔を覆いて 眠りたる 恥じらいの猫 おくゆかしき也
慎みて 怠ることなく 爪研がん 若し事あらば いざ振るわんと
窓の外 物憂げに見る 目の先は 手水に留まる 寒雀かも
石畳の 目地の線に 沿いたりて 伸ばす両腕 折り目正しき
薄衣を 一枚隔て 御座なさる 御影拝せば あな尊しや
常磐なる 石碑の側 鎮まりぬ 君もかくとぞ あらまおしけれ
またたびは 聞きしに勝る 効あり 酔いて転がる オトラ可愛し
タヌキかな タヌキじゃないよ オトラだよ うそではないよ ニャンと鳴くよ
透き通る 瞳覗きて 吸い込まれん 瞳も我を 覗き込む故
「ごめん寝」と 名付くる寝相 座布団を 突き抜け伏したり 寝苦しかるべし
狛猫の 努め果たさん 駆け上がり 見霽かしたる 姿凛凛しき
端正な 目尻鼻筋 常日頃の お手入れしたる 賜ならんや
御扉が 開かれまして 出でましぬ 警蹕代わりの ニャーの一声
小腹空き 思いあまりて 粗相為す 野生の性の 仕業なるべし
高いニャア・・・ 降りられるかニャ 迷うニャア 降りちゃおうかニャ でもやめようかニャ
オダマキを ちらりと見やる その心 かく美しき 心ともがな
影深き 背後微かに 耳澄ます 押し殺したる 息を感じて
凛凛しきは 八幡様の 乗り給うにや 御神馬ならぬ 御神猫かも
朝ぼらけ 常の例の 見回りを 終えて一息 伸びひとつする
陽の中に すらりその手を 差し入れて 暖めゆくは 我が心かも
一心に 伸ばす舌先 水むすび 命の糧と 身体巡らん
似姿や 主が似たか 猫似たか 春の弥生の 朝の一コマ
(下)
人々の 願い届けと 祈む背なよ 見送りゆきたる オトラ優しき
尋常より 優れたりしが カミならば まことオトラは カミにあるらし
鳥居をば 背に従いて 寝返るは 転楽しとの 心溢れて
ニャンだニャア 撮るなら撮ると 言うニャゴよ おすましするから さあ撮りニャさい
漢なら 堪えねばならぬ 時もある 堪えて花咲く 事もありなむ
水鏡に 写る姿を 鑑にて 我がふり直す 姿尊し
伸び伸びて 身体の限り 餌を狙い 狩りをせんとす 肢体麗し
花々に 混じりてなおも 混じらざる その御姿は 薫り高くあり
右足を 天に衝きたる その姿 神々しきは オトラなりけり
安らかに 心穏しく 揃えたる 両の腕には 幸多かれと
一陽の 青空の下 愛猫の 身を梳るに 春を感ずる
幸福とは かくありとなん 思ほゆる 頭の重みを 知る掌
春眠と 朝一番の 大あくび 人をも猫も 同じなりとぞ
ニャンですか? ニャンで呼んだの? どうしたの? え?ああそう それならいいニャ
ニャンと鳴く 餌と水出て なでなでも 至れり尽くせり 魔法の一言
矢継ぎ早に 目にも止まらぬ 早業か 繰り出したるは 猫パンチかも
奥処なる 廊下の果てに 鎮まり坐す オトラ拝せば ありがたきかな
肉球の 形留める 淡雪の 寒さ伝えん 幾度ともなく
為すがまま されるがままの オトラちゃん 手をかいくぐりてニャンと顔出す
木の上を 陸行くごとく 歩きたり 猫の本領 ここに目にせん
娘らの 御手の作なる 兜乗せ 益々上がれる ますらお振りよ
猫布団も いいけどえんつこも 捨てがたい 選べないニャア 贅沢猫かニャ?
献茶せん 御座にてくつろぐ 愛猫に 何をか祈らん 息災の他
猫の手も 借りたしといえ さてよもや パワーショベルを 操らんとは
わたさニャい この座は我の ものニャりよ 連れて行ってよ 置いてかニャいで
【著者プロフィール】
昭和55年生まれ 岩手県遠野市出身
遠野市鎮座「遠野郷八幡宮」で神職として働く
著書『教訓で読み解く遠野物語』