物語学の名著! 根性があれば、この原書を読もう!
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これ、いま、自分で勝手に翻訳をやっている。だいぶ進んだ。とにかくおもしろい。で、以前、某社にその翻訳書の出版をもちかけ、検討してもらったのだが、この業界の本としては、十年以上も前のものとなると、中に出てくる実例などが古いのではないか、ということになって、そのままになっている。もったいない、と思うのだが。
この分野では、世界的に有名な本だ。各国語に翻訳されている。(と言っても売れた数は知れているが。)チャーリー・カウフマン監督、ニコラス・ケイジとメリル・ストリープ、クリス・クーパー主演の『アダプテーション』にも、この本のセミナーの話が出てくる。かつてかなりの人気講座だった。いまは知らないが。
この本は、一般向けではない。脚本執筆の安直なノウハウ本でもない。ましてアカデミックな研究書でもない。でも、魅力的で、独創的だ。物語とはなにか、目に見える絵ではない、翻訳翻案可能な物語そのものとは何か、を、自分自身の言葉で掘り出そうとしている。これって、カント的な哲学問題だ。
私の他に、こんな狭い分野の分厚い本の翻訳に、日本で手を出す人もおるまい。だいいち、そこらのいわゆる翻訳屋がやったとしても、逆に単語が簡単すぎて、専門的な意味を補うことができるまい。せめて版権が取れれば、コピー本にでもして希望者に分けるのだが、しかし、アメリカの本は、がめついエイジェントが絡んでいるので、簡単な話ではない。というようなわけで、当分、翻訳は出ないと思う。だから、みんな、がんばってこの原書を読もう。それだけの甲斐はあるぞ。