恐怖が現実味を帯びたとき、彼は全身全霊で命を守る術を考えた。驚くべきことに彼は教師や警官やソーシャルワーカーという他人である大人と、郡の福祉政策と裁判所によって生き延びることができたのである。執拗に彼を破滅させようとしているとしか思えない母親の所業は、このごろ日本でも問題となっている幼児虐待とは違っているように思える。大人になった著者が、母親はアル中で病気だったと自分自身にいい聞かせている。そして母親自身、自分の母親との関係に悩んでいたようだ。
それにつけても、里子に出された著者、が紆余曲折の末、成功したことは賛美せずにいられない。普通の大人になるだけでも奇跡的なのに、アメリカ国民として1人「世界の優れた若者」に選ばれたり、聖火リレーの栄誉を担ったり活躍している。何よりなのは、彼が幸せな家庭を築いたことである。自分にはトラウマがあると思い悩んでいる人はぜひ一読を。(高津紀代子)
この本の中に出てくる里親や社会福祉事業に携わる人たちはさいわい強い意志と決断力を持った人々だ。これ以上は無理だ、と思ったら潔く引く覚悟もあるし。
人間、大人になると余計なプライドが邪魔をして「できません」と放り出すことがこわくなりがちなものだ。
そのことが、虐待が白日の下にさらされない一番の原因のような気もする…
それにしてもこのデイヴ・ペルザー氏、自分の幼い日の一つ一つの出来事に対して、感じたことを、よくここまで明瞭に詳細に覚えているよね。
つくづく、本人がたくましく生きる力を持っていたことに救われる。