近年になり、ミケランジェリの未発表音源が単発的に発売されるのは喜ばしいのですが、
中には録音状態・演奏内容に首を傾げざるを得ないシロモノも散見されます。

このCDは1973年10月20日、渋谷NHKホールでのミケランジェリ２度目の来日公演を録音したもの。
同年の10月29日に東京文化会館で東京FMにより収録された先発物よりも
むしろ高品質かもしれません。

ベートーヴェンのソナタでは、ペダリングの音も聴き取れます。
中でも涙ものは彼が得意としていたシューマンの謝肉祭。
この複雑怪奇な曲を一つの物語として仕上げ、一瞬たりとも気の抜けない時空を展開しています。
フィリシテ人と闘う「ダヴィッド同盟」の行進における、威風堂々たる弾きっぷりは
EMI盤を遥かに凌ぎ、この日の集中力のまさに頂点を極めています。

この日、目の前で彼の実演を聴けた人達をうらやましく思います。