科学的思考法
★★★★★
いわゆる「地球規模の問題」に対して、使える資金での最適なアプローチは何か、
というのがテーマのこの本。
倫理的な批判もあるのかも知れないけど、
理性的に考察する時に、科学や数学は有効なツールだ。
倫理ではココロは救えるかもしれないけれど、
身体を救うのにはより強力なツールが必要になる。
そろそろ問題提起より解決に
ココロでなくアタマを使おうという導きの為の「費用・便益」のお話。
ココロにとどまりたいヒトは、
「温暖化防止イベント」にて温室効果ガスを沢山だして溜飲を下げれば大丈夫。
そう、実は大丈夫なんだし・・・・・・・。
一読に値する。
★★★★☆
各論の優先順位を付けるというありそうでなかった試みである。
反論も載っているので多角的に考えることができる。
しかし、この本の目的は一言で言えば「啓蒙」ということだと思うが、その目的をより効果的に達成するためには新書で出版した方が良い。
中身が経済学的観点からより効果的な政策はどれかという議論が行われているにも関わらず、本自体が割高で、それによって読者が減ってしまうのでは経済学的観点から見て全く不合理であろう。
選択することは何かを捨てること。真っ先に何をすべきか?
★★★★★
世界のためにあと五〇〇憶ドル使えるとしたら、どの問題から
解決するべきか?この問いに対して、経済学的な費用・便益に
焦点を絞り、論じていく本です。
本書は、2004年5月24日〜28日に多くの経済学者が参加して
開催された国際会議「コペンハーゲン・コンセンサス」の要約版。
世界が抱える10の深刻な問題に対する分析と対策を経済的な観
点から論じ、批判的な評価を加え、そして、経済的な費用と便
益を判断指針として優先すべきランクをつけていきます(ランク
つけのプロセスの記述が少ないのが残念です)。
マスコミでは、年金は大事、雇用対策も大事、教育ももちろん大事
・・・というけど、「じゃあ予算は?」となると「税金の無駄をなくせ
ばいい」で思考が停止していると感じる日々です。そんな中で、
使える資源が限られているという仮定から議論がスタートする所に
新鮮さを感じました。
「全く違う種類の問題に順位をつけるのは無責任じゃないのか?」
この疑問に対して本書は答えます、「議論しないからといって
優先順位の決定がなくなるわけではない。背後にある意思決
定プロセスが見えにくくなるだけだ。だから、優先順位決定
に関する議論は行うべきなのだ」、と。
本書の中には、議論として偏っていると感じる点もあります。
倫理面から見て適切な判断なのか疑問な点もあります。でも、
難しい問題だからといって、思考停止せず、考えつづけるべき
だと読者一人一人に感じさせてくれる本です。
全地球的問題を解決する難しさを問う
★★★★☆
以前から存在した書籍の新訳版。
全地球的問題を費用便益的な分析「のみ」で考察した書籍。そこに感情や、特定国の利益が入り込む余地は無い。
ご想像の範疇かもしれないが、本作はヒステリックな学者連中や感情で危機感を煽るマスコミからはすこぶる評判が悪い。
生命の生死に関わる問題を比較・値付けすることへの批判や「温暖化を放置するというのか!」といった批判だ。
しかし、IPCCなどの分析に拠れば、全地球的視点ではある程度(3℃以下程度)の温暖化には恩恵の方が多いことが分かっているし、
そうした温暖化で被害を受ける国家の多くでは、そんなことよりHIVや飢餓・マラリアの方がよほど切迫した危機なのである。
「100年後にあなたの国は確実に水没します」と「あなたはこのままではマラリアで死ぬ可能性が90%です」。
どちらが切迫しているかは考えるまでもあるまい。
もちろん温暖化など、本書で軽視された問題の解決を等閑視して良いというわけではない。
しかし、将来の温暖化と明日の飢餓を等価で考えてしまうことは、先進国とLLDCとの彼我の隔たりを全く理解していない暴論だ。
少量の力を分散させるよりも、最も効果が上がる分野に集中して力を注ぎ込むべきであることは、
クラウゼヴィッツでもランチェスターでもウェルチでも良いが、経営では当たり前のこととされている。
それが、全地球的問題になると突如として視野が狭窄して温暖化ばかりが俎上に載せられる。まさしく先進国のエゴイズムだ。
なお、将来価値への割引率の設定や、人が死ぬことが国家に与える損失の計算は容易ではないから、
本書で導き出された数字やランク付けを鵜呑みにすべきではないだろう。
しかし、ワイドショーのエコ特集よりは本書を読む方が、得ることが多いと私は思う。
石油で作られるエコバッグを買って何かを救った気になる前に、本書に目を通してはいかがだろう。
地球の重要問題と解決策に、専門家の合議で優先順位をつける希有で重要な試み
★★★★★
ロンボルグによるコペンハーゲン・コンセンサスの要約版。要約でも、世界の各種問題についてその道の第一人者が費用便益分析を行ったもとの論文とそれについてのコメント、それをもとに経済学者がつけた、世界が取り組むべき解決策のランキングが簡潔にまとまっている。
これの特徴は、これが問題の深刻さを順位づけるものではなく、解決策として取り組むべき順位をつけたものだということ。どんなに問題が深刻でも、まともな解決策がなければそれは低い順位になる。その結果でいちばんの話題になったのは、排出削減による地球温暖化対策のランキングが最下位になったことだった。排出削減推進派は、これは結果が歪んでいるとか、意図的に過少な見積もりをしているのではとか、根拠レスなかんぐりをいろいろして批判をしたのだが、本書を読むと、排出削減による費用便益分析をしたクライン(炭素削減論大支持派)は、過少評価どころか過大推計をしているようだ。将来の費用便益を現在価値に直すときに、割引率をゼロにして、かわりに消費との比率で限界価値が決まる変わった割引を使っている(p.30)。この論文に対する批判もそこに集中している。そして、それだけ過大に評価しても、排出削減は最下位でしかなかったのがよくわかる。エイズやマラリア対策や栄養失調対策や貿易自由化といった地道なことがやっぱいちばん重要なのだ。
翻訳は、きちんとしているし問題なし。ただ温暖化が低い順位になったことについて、訳者は将来価値を割り引くからだ、という解説をしているが(p.223)、上に述べた通り本書では必ずしもそれはあてはまらない。掲載論文ではそれを考慮して別の考え方を使っている(批判は受けているが)。自分で訳してるんだから、そういうところはまちがえないでほしいなあ。でも、それが訳文を歪めたりはしていないのが救い。
拙訳『地球と一緒に頭も冷やせ! 温暖化問題を問い直す』でもたくさん引用されているので、議論の中身を確認したい人は是非どうぞ。絶望だ破滅だと騒ぎ立てて、役にたたないものに金を使うより、本当に有効なことに少ないお金を使いたいと思う人は必読。