文学史の本は丸谷才一の「日本文学史早わかり」を読んだ程度である。本書の読後感は、このような考え方もあるのか、またこのような斬新な考え方が日本文学史と言う古色蒼然とした分野に導入されたと驚いた。ところが、本書の初版は1,953年とのことであり、優に半世紀以上前のことである。
小西氏は、連歌を山田孝雄(ヨシオ、いわゆる「新解さん」のお父さん)に、能を観世寿夫にそれぞれ師事したという。
本書はいわゆる文学だけでなく、能、狂言、連歌、幸若舞、浄瑠璃、歌舞伎といった、諸種の日本の芸能にも実によく目配りしている。もともと本書のタイトルも「日本文藝史」を目論んでいたことからもわかる。
そして本書の序に『将来、文藝現象そのものをもっと大規模に把握した研究が成就される途上の、ひとつの路標にでもなれば、この上の幸せはない』との意気込みはその後「日本文藝史」(全5巻)(講談社、1986年)に結実し、平成四年の大佛次郎賞の受賞へと続く。また、あとがきには、ドナルドキーン氏とのライバル心も披露されており、興味をそそられた。
文藝現象の展開を因子分析よろしく、「雅」「俗」「俳諧(後に雅俗)」の三次元座標軸に投影し、日本文学を「世界」視点から把握した。