初等幾何のステキな証明技法の解説書
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共線・共点・共円に関する問題を中心に、数学オリンピックの良問が選りすぐられている初等幾何の問題集である。
本書の証明技法として、以下の特徴を挙げたい。先ず、相似変換を用いた鮮やかな解法に目を見張る。演習問題5-4、6-6、8-5、18-6などがこの好例である。次に、円に関する「反転」を巧みに利用する技法がユニークである。「ごく入門的なところのみを説明する」と書かれているが、第19章の問題だけでも十分に楽しめる。9点円に関する性質が上手に利用されているのも、この本の大きな特徴である。
内容につき、以下の2点が読者に新たな知見を与えてくれるものと思う。
先ず、フォイエルバッハの定理のステキな証明を挙げたい。一つは5心間の距離を利用した三角法による証明(定理8.7)で、もう一つは反転を巧みに利用した証明(演習問題19-1)である。この二つの証明はともに素晴らしい。
二つ目に「キーぺルトの定理」(定理10.5)を挙げたい。三角形の各辺を底辺とし底角が等しい3つの二等辺三角形を描くと、相対する三角形の頂点を結ぶ3つの直線が共点になるという美しい定理である。ナポレオン点、ヴェクタン点、フェルマー点という三角形幾何に関する古典的な共点は、この定理で底角が30、45、60度のケースに相当する。
最近出版された初等幾何の問題集では、本書とソルテー著『なぜ初等幾何は美しいか』の2冊が優れていると思う。ソルテーの本は、本書で割愛されている等角共役点、特にルモアーヌ点とその周辺の話題にも詳しいので、本書と併せてお薦めできる。