今、そこにある日本の世間との格闘を描く
★★★★★
フジテレビ・プロデューサーであり、猿まわし芸の村崎太郎氏と結婚した栗原美和子氏の「私小説」風私小説での問題提起。
「結婚差別」という形で見えてく日本の世間を、当事者の経験から描き出した作品です。
様々な関係者が現存する中で、当事者が自身の体験を描くには、まだまだ時間が必要と思われる中で、「私小説」という形でその困難に挑戦した栗原氏の壮挙と言える作品と思います。
本作の登場人物の感情の揺れを味わい読み込むためには、村崎太郎氏と栗原美和子氏の他の著作を参考することが必要と思います。両氏の今後の著作に大いに期待します。
あえてハッピーエンドにしない理由 考える重要性
★★★★★
太郎が恋をする頃までには 栗原美和子 幻冬舎文庫 2010
単行本2008年
ボロを着た王子様の筆者である村崎太郎との結婚に至る経緯を一部フィクションした作品。文庫本の後書きで栗原さんが書かれているように、あえてハッピーエンドにしないところが肝だと思う。
未だに存在する差別問題を中心テーマにしている。被差別部落出身を告白した村崎さんの人生を栗原さんが咀嚼し物語りとして綴って行く。東京と言うある意味現代のアジールでもある場所と未だに部落としてリアルに認識されている多くの地方に存在する地域。法的にはなんら差別も区別も存在しないはずの日本。しかし、残念ながら差別、偏見が消滅しない現実がある。個人的にはこの様な書物や映画を含む教育が問題解決の最も有効な手段だと考える。ただ、当該地域の皆さんの静かにしていてくれという声も当然であるが耳を傾けなければいけない。
私小説ゆえの良さ、悪さ
★★★☆☆
本作は私小説−−自分の経験を題材にして描く小説であるがゆえに強靭なリアリティが備わってます。
読者に「差別問題」について深く問いかけてきます。
「そんなバカな」と疑う余地もない。
これは私小説であることの最大のメリットでしょう。
一方で、私小説であるがゆえ、作品の裏側に作者の顔が透けて見えてしまい、正直気持ち悪いです。
本来 作品と作者は切り離して考えるべきであるとは思いますが、私小説ではそうもいきません。
主人公のプライドの高さ、言葉づかいのセンスの古さ、
業界人特有の打算などが鼻についてしまい、何とも楽しく読み進められません。
これはまったくもって、個人的な感情ですが、40すぎた女性が
ママ、ママと高齢の母親にすがる姿は不気味としか感じられません。
テーマの重さと語りや人物造形の稚拙さがバランスが悪く思えます。
とはいえ、いろいろ考えさせる作品ではあるので★3つ
結末は,これでいい!
★★★★★
「結末でがっかりした」「差別のばらまきやないやろか」などとあまり評判がよろしくないレビューがあったので,迷いながらも購入して読んでみました。けれど,よくぞここまで自分と向き合った物語を書いてくれたものだと感心している。私は,結末はあれでいいと思う。自分を生んでくれた親と愛する夫との選択を迫られる状況に遭遇したとき,今日子とハジメが出したのと同じ結論にたどり着いた恋人達や夫婦のなんと多いことよ。それを差別に敗れた姿だと糾弾することは簡単である。しかし,あの結末こそ現代日本の哀れな一面を包み隠さず著してくれていると思う。例え作者自身の現実の生活と違っていても,社会の矛盾をきちんと描き,きちんと告発してくれていることが大切である。ハジメが,今日子に別れを伝える言葉をどのような思いで絞り出したか,私には痛いほど分かる。これは,読者に自分自身の差別意識と向き合うきっかけを与えてくれる良書としてお薦めしたい。
何で俺を生んだんや
★★★★★
なんの予備知識もなくこの本を購入した。面白い。びっくりした。「何で俺を生んだんや」という台詞を読めただけでも十分価値があると思う。ただ最後はハッピーエンドにしてほしかったなあ。