党派性を排した姿勢が多くの人を惹きつけた
★★★★★
リスク学の評価もさることながら、自伝的部分からにじみ出てくる著者の人間的魅力に感銘を受ける。都市工学科の万年助手から一転この分野の泰斗と目されるに至った経歴には驚かされるが、その辺り、いかに他人に助けられてきたかを穏やかな筆致で綴っている。本人は常にマイノリティであったと語っているが、党派性を徹底的に排したその姿勢(これはBSEを巡るバランスの取れた記述にも現われている)が多くの人を惹きつけたのであろうことは想像に難くない。
環境ホルモン訴訟はこの著の後のことだが、あれだけの人が自然発生的に支援に集まってきたことが、何よりもそれを物語っている。
池田信夫blogで取り上げられていた。
★★★★☆
有名ブログの池田信夫blogのコメント覧で取り上げられていたので、手に取った。
が、もちろん環境問題の専門領域の本なので文系には難しい。
本書内容については、他のレビュアーの方の記事をご参照いただきたい。
ただ、いまちまたをにぎわす温暖化問題が、実は根拠なく疑わしいとの説もある今、著書のような考え方に触れるのは大切と思う。
バランス感覚が素晴らしい
★★★★★
知らなかったなあ、こんな人がいるなんて。不勉強だった。本書は退官記念講演の内容や、あちらこちらに書いたもののまとまりで、構成は雑駁であるが、そのおかげで読みやすい読物になっている。彼女が昔取り組んだ下水道問題から、最近のダイオキシン、環境ホルモン、BSE、遺伝子組換え、電磁波、など、生きて行く上でのリスクをどう考えるかが明快に、しかも細かいところまで配慮しながら、書かれている。要約してしまえば、世の中すべてはリスクのバランスなので、あるリスクだけを100%避けることは得策ではなく、それぞれのリスクに配慮して、トータルとしてリスクが最小になるように、行動しましょうということなのだが、それぞれの事例できちんとしたデータが示されているので、大変説得力がある。彼女は初め下水道問題を扱った時は官僚や学会から弾圧されて、後に、ダイオキシンや環境ホルモンのリスク評価をした時には、市民運動家から糾弾された。全体を理解してきちんと評価するとそうなるのだろう。その両側の人々が彼女の研究を理解して、利用するようにならないものだろうか。特に、メディアの人々には、少なくともこの本ぐらいは読んでほしい。
「化学物質」リスク学
★★★★☆
まずは,我々の常識を変えなければならない.
我々の常識はTVや新聞などのマスコミから流れ込んでくるものだが,その関係者はほとんど科学的知識がないことをこの本を読んで思い出した.
もちろん,大学や各種研究機関の学者もかなり怪しいものだし,政治家・各省のお役人となれば,お寒いかぎりだ.
いろいろ問題はあるにしろ,各種リスクを明解な形で提示する方法を編みだしたのは,興味深い方法である.ただし,著者は「化学者」なので,原発や自動車,航空機あるいはふつうに道を歩いていることの「損失余命」を算出しているわけではない.科学読み物ではあるが,「不安の海の羅針盤」は言い過ぎ.我々は化学物質だけで生きているわけではないのだから.
「損失余命」という単純化も(この本を読んだお陰だが)危険性が理解できる.
“科学者”は数限りない間違いを繰り返しているのだ.著者があるいは著者の弟子たちが計算した「損失余命」も間違いがあるかも知れない.この本の著者は,それまで常識だったたくさんの「先輩たちの間違い」を指摘しているのだ.
もう一ついえば,たとえ1/100万の確率で,国家レベルでは受容しなければならないリスクだとしても,個人的には,それが1/1千万だとしても,未来があるのにボロボロの脳ミソになって死ぬのはいやだ.私は数値ではなく,生きている一人の人間だから.
とまあ,いろいろ問題はあるけれども,この「リスク学」という考え方は面白い.
これをきっかけに,もう少し「リスク学」を勉強してみよう.
そういえば,アスベストはリスクランキングには入っていなかったなあ.(実質)無害?
よりよいやり方を指し示している。
★★★★★
サブタイトルにも「羅針盤」とあるのですね。
とかく水掛け論に陥りがちな「環境問題」。著者は化学物質の危険性について研究・発言を続けてきて、「リスク評価」という本書で示される方法に到達しておられます。まだまだ問題含みではありながら、方法論としてはかなりフェアなものになりうるのではと感じました。
専門家向けのがちな本ではありませんので、門外漢の方も「ちょっと勉強」くらいの気持ちで手にとって見てはいかがでしょう?。各論の結論はともかく(個人的にはおおむね同意できるものになってます)、「どうしたらいいの?」について考えを深められること請け合いです。