「青臭い森敦」という貴重な体験
★★★☆☆
森敦は昭和9年に22歳でデビューした早熟の天才だった。ただしその後は作品を発表せず、60歳を超えて「月山」で芥川賞を取るまでは、ランボーのように消えてしまった。(「酩酊船」というタイトルはランボーの詩から取られている。)
一高生時代の習作を集めたこの作品集は、やはり若々しい青臭さがプンプンする。実際、未完の作品も多く、正直、「酩酊船」以外は見るべきものを感じない。「酩酊船」は時代的なものを考えると相当実験的な作品で、ニコチン中毒の青年が「酩酊船」という作品を書き出すまでを扱っている。こんな通好みな作品が新聞小説に連載されたという事実に驚かされる。
「月山」以降の枯れた宗教哲学的世界に馴染んだ読者にとっては、「森敦にもこういう時代があったんだ」ということを確認できる、資料的価値のある文庫。