「帝国」という標語を理解する一助に
★★★★☆
本書は「帝国」としてのアメリカを「帝国主義」という用語を用いずに説明することを試みたものである。
著者によれば「帝国」とはまず軍事的に他を圧倒する国家の事である。
それ故に市場経済での広範な影響力や植民地政策は副次的なものに過ぎない。
上記の多義的かつ曖昧な要素を「帝国主義」という用語は含有しているために「帝国」を説明するには不適当である。
そこで著者は帝国概念の整理から始め、ドイルの「帝国」概念を参考にしてアメリカを、
「他の政体の国内・対内政策、さらに国内政治の仕組み全体に対して政治的にコントロールを加え」る
存在であると定義している。
これにはアメリカが冷戦後、どの大国にも抑止されることの無い「唯一の超大国」となったことが大きい。
しかし著者は「帝国が成立するためには、そのような客観的条件に加え、帝国として行動する政策、
具体的には各国に対して優位を確保しようとする戦略と、世界各地に対して必要に応じて、
単独であっても介入をする意思という二つの条件が必要」であると言う。
それでは何故アメリカはこれらの要素を必要としたのか、そしてどのようにそれらを獲得してきたのか。
文化的、歴史的背景にも言及しつつアメリカの発展を述べ、帝国のこれからを展望して議論が終わる。
アメリカの「最大の問題」は「単独行動主義」であると著者は言う。
彼によれば、それによって国際機構が形骸化し、各国が地域での制度形成へ傾くことこそ恐れなければならない。
そして、著者は帝国以後の秩序として、アメリカが国際協調に回帰し、本来あるべき国連を再構築することを提案する。
ただこれには具体的な方法論は提示されず、「われわれの努力が求められる」と漠然としたものだった。
アメリカへの分析は秀逸だっただけに、最後にもの足りない印象を受けてしまったことが残念である。
文学と国際政治学の取り違え
★☆☆☆☆
学術的価値は無。知識のある人ほど読めないだろう。当時のアメリカ事情を少し知る材料程度。議論、考察は一般向け新書とはいえ浅い。また、筆者は国際関係学のディシプリンを十分に自分のものにしていないことが推察でき、「国際政治に関する文学的語り集」と言えなくもない。2002年当時は、当時国内で今後はやりそうであった「帝国論」と結びつけ、国内出版的に価値はあったであろうが、ポストブッシュ時代の中で過去を振り返るにしても、もともとが「文学的語り」がちりばめられているだけなので検証のための材料にもなれない。「何学」と位置付けたらいいのか教えて欲しい。
よく理解できるし面白いけど
★★☆☆☆
本書の価値を著しく減じていることがある。
それは、現在のアメリカを、もはや歴史に属しているものと考えられてもよい「帝国」と定義
づけることが意味することをほとんど示していないことである。
「帝国とは、政府や政策の評価ではなく、現代世界における力の分布と力の行使を捕まえる観
念」であり、「帝国という用語は、もうそれだけで価値判断や偏見を伴うことが多い」が、著
者の目的はアメリカの「帝国ぶり」をなじることにはない、と述べているだけになおさらである。(3頁)
なぜ今のアメリカを説明するのに「帝国」という概念を用いるのか。それが説明されていない
と、やはりそこには何らかの隠された「意図」を感じてしまう。
アメリカが「唯一の超大国」である国際関係と、「帝国」である国際関係の大きな違いは、ア
メリカの「意図」にある。パワーの分布は基本的には変化がないだろう。
そして、「唯一の超大国」から「帝国」へと変貌を遂げた大きな要因が、9・11だと説明する。
本当にそうだろうか? 本当にアメリカは変わったのだろうか?
ある地域へと影響力を行使しようという「意図」は、9・11前はなかったのだろうか?
冷戦終結によって、影響力が行使できる範囲が広がったことは事実だろう。だが、冷戦中のア
メリカは自国が持つ影響力をそれが及ぶ範囲の地域や国に行使しようとしてこなかったのだろ
うか?
9・11によって世界は変わったのかもしれない。だがそれをアメリカの「帝国化」という変化に
よって説明するのは、本書を読む限りでは無理があると考える
灰色の研究
★★★★★
アメリカを黒でも白でもなく冷静に捉えたい。筆者のそんな視点に共感できる。
だが現在のアメリカは黒でないまでも、限りなく灰色に近い黒だ。本書における批判もそのような傾向を示している。もちろんそれは、本書が9・11テロから1年を経過した時期の執筆であることを反映している。
筆者が明らかにする帝国アメリカの行動原理は、デモクラシーと正義という理想である。アメリカはこれを、国際協調を無視した無制限の単独行動主義で推し進めていく。このような帝国的なあり方は、リアリストよりも、リベラルを含むイデアリストによって支持されているというが、9・11テロ直後の異常なブッシュ支持率を裏書きしていて、アメリカのリベラルのナイーヴといってもよい底の浅さに寒気を覚えてしまう。
それから瑣末なことかもしれないが本書の中に、アメリカの対外政策の足かせがテロリストによって取り払われた、とかアメリカが単独行動主義に切り替えるには9・11テロが「必要」だったという表現が見られる。あたかもテロをアメリカが望んだかのような表現だが、あのテロはアメリカの自作自演だったのではないかという疑いを持っている私には、不適切どころかかえって適切な表現に思われた。
ほかに本書には「インディー・ジョーンズ」や「インディペンデンス・デイ」あるいは「地獄の黙示録」などハリウッド映画が、アメリカの帝国的性格を表わすものとして取り上げられている。その政治的・社会的分析が、映画の性格をうまく説明してくれていて、かえって一般の映画批評よりも新鮮で面白く、ためになった。
いまや末期状態にあるブッシュ政権だが、9・11後を振り返り、またその先を展望する上で、本書は依然として有効な批判書になっている。
どの辺がデモクラシーか
★★★☆☆
流行の帝国論の一書である。
アメリカは帝国である。そしてアメリカはそれ以前との帝国とどう違うのか。
植民地帝国であったイギリスとは違い、アメリカは海外に領土を求めないところにこそ特長がある。特定の植民地を持たないことこそがアメリカの都合のいい介入を実現させる基盤である。そして軍事力。冷戦終結後も比類無き軍事力を確保してこそ国際政治におけるフリーハンドを有することが出来る。
そしてアメリカが単独で覇権を行使できる軍事以外の局面では他国との協調も否応なく必要となる。ではアメリカが協調することもない小国の運命はどうなるのか。そこに第三世界の失敗がある。
本書を一読して思ったことは、「デモクラシー」という言葉をわざわざ表題に持ってきた意味は何?ということである。
内容はあくまでも帝国論である。民主主義社会が生み出した帝国のあり方などが論じられるかと思えばそうでもない。羊頭狗肉とまではいかないが看板に感じた疑問はぬぐえない。