筆者三留理男氏の丹念な取材によって浮かび上がる遺跡破壊の実態には背筋が寒くなる。もちろん背景にあるのは貧しさであり(カンボジアはアジアの最貧国)、祖先の遺してくれた遺産への無理解であり、一攫千金をたくらむ欲望である。そして盗品を欲しがるコレクターたち。
筆者はカンボジアの歴史から説きおこし、ベトナム戦争や内戦のどさくさによる遺跡破壊を経て現在に至るまでをていねいにたどる。悲しいのは解決の糸口が見えてこないこと。法を整備しても効力がないのだ。読みやすく分かりやすい文章なので一気に読んでしまったが、読み終えて暗澹たる気持になった。破壊を防ぐ国際協力はできないものか。