というわけで、この小説は韓国系2世アメリカ人の著者がクロスカルチャーな視点から、ブロンクス周辺のラオス、ヴェトナム、韓国系など新参アジア市民のアメリカ社会への同化と葛藤を描いた所謂越境文学である。Native Speakerというタイトルは、単に言語の問題だけではなく、アジア系アメリカ人がアメリカ社会において常に内なる他者であり続けることを意味している。他民族社会アメリカの複合的人種関係のありかたを垣間見ることの出来る作品である。韓国人居住区で勢力を伸張しつつある政治家の運動事務所にスパイとして送り込まれた韓国系の主人公が、複雑な人間関係を通して自分のアイデンティティを模索していくという筋書きである。
ちょっとスパイ探偵小説のような感じだが娯楽作品では決してない。淡淡とした語り口で、著者のアメリカ社会に対する冷静な眼差しを感じることができる。人称代名詞の使い方が必ずしも明瞭でなく、ところどころ読みにくさを感じるが、英語そのものは平易である。日本には在日韓国人による優れた文学があるが、比較して読むと面白いかもしれない。