「少年A」この子を生んで……―父と母悔恨の手記 (文春文庫)
価格: ¥540
弟の同級生であった顔見知りの少年を欲望のおもむくまま殺害し、首から上を切断。さらにその生首を自分の通う中学の校門に声明文とともに放置した恐るべき殺人鬼――。1997年、日本中を震撼させた神戸児童殺傷事件の憎むべき犯人は、14歳の少年だった。
今や少年犯罪のるつぼと化した日本で、ささやかれる「社会」そして「親」の責任――。現代におけるその状況下で、殺人犯少年Aの父母がつづったこの手記を読めば、読者は単なる傍観者的立場ではいられない。
わずか14歳でこれほどまで凶悪な事件を犯した少年に対し、向けられる社会の矛先と言えば、まず家庭環境だ。しかし、本書を見る限り、少年犯罪につきものの「家庭不和」は手記の中には出てこない。ここでは少年Aの生い立ちや両親の少年Aに対する愛情が「親の目線」で、言い方を変えれば「実に平凡」に書かれている。だが、この「実に平凡」な家庭環境を強調した親の手記こそが、「犯罪は特別な家庭環境でのみ起こり得る」と捕われがちな発想を「犯罪はどこの家庭にでも起こり得る」という「現実」へ読者を導いてしまうのだ。
ただ、本書は手記である故に、物事の捉え方が一方的になることは避けられず、Aに対してのしつけや関わり方、感情に対しては細かく書かれているが、被害者やその遺族に関することについてはあまり深く述べられてはいない。それを回避するために、被害者側の父親の手記『淳』(土師守著)と読み比べると、家庭環境におけるここでの犯罪原因を自分なりに追求しやすい。(今西乃子)