戦後復興期、試行錯誤しつつ成長する青年の日々
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1951(昭和26)年3月の中学卒業から高校生活3カ年の展開。静岡市が舞台。当時の世相を背景に兄、母、校友、教師などとの交流を中心に描かれる。分裂した共産党のことが結構彼らの話題になる。主人公は、その一方のいわゆる所感派の暴力路線には勿論おおいに批判的。一旦入った社会科学研究会にその影響を感じて止めてしまい、その後は文芸部で小説を書くことに開眼。前作『裸足と貝殻』に続く自伝小説第2弾である。
生徒、教師などはいずれもがなかなか個性的に描かれる。ということは、生徒の人物像には作者の脚色があるのではないかと思ってしまうが、それ故に、自伝風とはいえ、大小のエピソードでつぎつぎと物語が構成され、おもしろくつながって行く。
そして、主人公の個性も、彼らとの対比で目に見えてきて、片足が悪いハンディは意外に気にならない(しない)が、ませた友人や、勉学や世事、文芸に特異な才能をみせる個性派生徒達に比べると、彼は何事にも消極的で踏ん切りが悪く女性に対してもやや引き気味・・・等々。でも、そんな中で試行錯誤しつつ自らの行く道にだんだん踏み込んで行くこととなる。成長のスピードもなかなかである。高度成長はまだ先のこと。
ところで、前作とともにこの自伝の題名の謂れは?