主に、まだ敗戦の影響が残る1950年代から、戦後詩の完成期である60年代に、詩人あるいは編集者として著者が出会った、多くの戦後詩人たちの姿が活写されている。関根弘や谷川雁、鮎川信夫や田村隆一など、今は亡い戦後詩の大御所ばかりか、その後ほかのジャンルへ移った詩人、現在も活躍中の詩人を含め、総勢50名近く。戦争のキズを胸に、生活も貧しかったが、時代を切り開く言葉を手探りしながら、詩に熱中し、競い、ほえていた詩人群像だ。性格や思想はもちろん、依拠する詩誌、グループも異なる詩人たちの、誰もかれもアクの強い存在感あふれる姿は、世代を超えて読者の興味をそそるだろう。
批評的観点から書かれる「詩論」も大切ではあるが、読者を詩からムズガシイと遠ざける一因になっていたかもしれない。その点本書は、人間への興味から詩作品の鑑賞へと読者を導くしくみになっていて、読みやすい。実際、作品もたくさん紹介されているし、現在では入手不可能な詩集からの引用もあり、ここにしかない貴重な詩に出あえるのが、うれしい。
本書はまた、三木卓その人を主人公にしたビルドゥングス・ロマン(教養小説)でもある。1人の文学少年が作家に成長していく過程を、戦後という時代の詩と詩人を描くことで、これほど鮮やかに浮かび上がらせた書はほかにないだろう。(中村えつこ)