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価格: ¥1,890
カテゴリ: 単行本
ブランド: 中央公論新社
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錦に命をかけた男を支えた三人の女、それぞれの立場と生き方 ★★★★☆
帯地の行商から始め、やがては法隆寺の錦の復元に成功した伝説の工芸家の生涯をモデルに、

主人公を愛した妻・妾・従業員の三人の女性の生き方をも描いた小説。

「ビジネス」という語ではなく「あきない」という語がよく似合う頃の人々の生活や心のうちを知ることができる。
主人公より脇役が魅力的 ★★★☆☆
巧みな筆捌きで飽きることなく最後まで一気に読めました。
これまでの作品に比べて平易に読める文体にされたように感じます。

主人公菱村吉蔵の激しい人生もさることながら、それをとりまく明治から昭和初期にかけての風俗も味わい深かったです。

ただ読みながらとても気になったのですが、彼は一切機織りをしません。非凡なアイデアを着想し、優秀な職人を集め機織りの環境を整備するのではありますが、機織りの技術そのものは全く持たないという謂わばプロデューサーという設定です。プロデューサーなのですが、最後は命を削ってまで、そして家族を含めた周囲の人に多くの犠牲を払わせながらも錦を作り続ける、そんな異常な執念の持ち主です。

実際に一切機織りを行わないのに錦の帯作りに執念をあげる、そんな人が存在しえないとしても小説だから創作するのは当然のことですし、ましてやモデルとなった龍村平蔵氏を私が全く知りませんのでこのような批判は見当ハズレかもしれませんが、しかし、そのような人がいようとはなかなか想像が出来ず、それゆえリアルな人物像を結ぶには至りませんでした。この人物造形に関して、更に念入りな描写がされていれば、尚一層楽しめたかも知れません。

また、充分に起伏に富んだ生涯ではあったのですが、想像していたほど波乱万丈というわけでもなく、ややトントン拍子に過ぎる感がありました。

一方、脇を固める女性たちの描写はとても豊かで、特に最後まで付き添うことになるお仙は、とても生き生きとして良かったです。私は、吉蔵自身よりもむしろ、彼を取り巻く3人の女性の描写を面白く読みました。
正倉院展に行きたくなった ★★★★☆
一気読みである。
それだけの面白さはある。
ただ…この作者には珍しく、商売というものを覚えるまで、独自の帯を生み出す苦労、博物館級錦の復元への傾注、これだけは書かなければ…と決めたものを、とにもかくにも制限枚数に収めたぞ!という臭いが、プンプンしてしまうのだ。
ひとつひとつのエピソードは、非常に興味深い。
「うんうん、それからそれから〜?」と思っていると、パッと別の話題に移ってしまう。
今の話の続きが、もっと知りたいのに…。
作者自身も(これまでの作品を思い起こしても)、本当はまだまだ時間をかけて、枚数を割いて、完成させたかったのではないだろうか…。
出版日と、正倉院展の日程を考えると、どうしてもそんな気がしてしまうのだ(笑)。
ただ、ひたすら正倉院展に行きたくなる…それだけは確かだ(笑)。
決して良くない訳ではない。
むしろ非常に引き込まれるからこそ、突然、次の話題に移ることで、集中の糸を切られてしまうことが、残念なだけである。
三十年の重み ★★★★★
この人の小説はどれもそうだけど、やっぱりとしか言えません。
つまらない感想ですみませんが、圧巻です。

錦。
絹織物の一種ですが、それに取り付かれた男の話。

没落した名家の一人孫、吉蔵が傾いた家を立て直すために帯商いを始め、
最初はだまされたり躓いたり、苦労して特許を取った商品を真似されたり
裏切られたり・・・と紆余曲折を経ながらも、その技術と執念をもって
古代の「錦」修繕事業に取り組む壮絶な物語。男が主人公とはいえ、やはり
宮尾作品、彼を取り巻く女たちは耐え、忍び、儚くも強い芯を持った女ばかり。

文章は丁寧だし物語はまさしく織物のように少しずつ、だけど緻密に織られていき、
最後には荘厳な一枚布となる。その工程を見せてもらえるのは、同時代に生きる
ことの特権かもしれません。

尚、団十郎をモデルにした「きのね」のように、吉蔵にもモデルがいるそうです。
著者初?の男性が主人公作品 ★★★★☆
きもの好きなら「龍村平蔵の帯」といえば、垂涎モノです。アンティークのきものを扱っているお店などで、目の玉が飛び出るようなお値段だったりもするのですが、その作品の存在感というのは、服飾品の域を超えて、まさに「美術品」と呼べるものです。
その龍村を創業し、織物に一生をささげた龍村平蔵をモデルに、宮尾登美子さんが30年の時間をかけてやっと書き上げたのが、この『錦』です。

主人公は、織物に取り憑かれたかのように、新しい目標を定めては、それに向かって一心不乱に前進していきます。そして、大名物茶入の仕覆の復元をきっかけに、法隆寺や正倉院御物の復元、さらには宮家の注文によるタピスリーの製作と、一織屋の域を超えた活躍をします。

仕事の業績が経糸なら、緯糸となるのは、彼をめぐる3人の女性との関係でしょう。十代から主人公に好意を持ち続け、仕事の場では常に吉蔵に付き従うお仙、曲尺屋から嫁入りして無口な中にも強い芯を感じさせる妻・むら、吉蔵の心の拠り所となる妾のふく。やはり、女性を描かせると宮尾さんの本領発揮という気がします。

ちなみに、タイトルになっている「錦」は、古くからある織物の技法で、さまざまな色糸から織り出された布のことです。

400ページ以上の大部ですが、なぜ龍村の帯に人が惹かれるのか、それを作った人たちがどんな苦労をなさったのか、という点に興味を持って、どんどん読み進んでしまいました。が、これまで読んだ宮尾作品としては、個人的にはもう一つ、突っ込みが・・・という気もするので、☆4つで。