随分聞き分けのいい姫だなあと感じて読んでいましたが、
実は毎夜のように涙をこぼしていたのです。
読んでいくうちに予測はできるのですが、それでもゆきが涙でぐしょっりにぬれた紅絹の切を見つける様子には読んでいてとても切なかったです。
どんな身分であれ、願っていたことはひとつだったはず。
その願いすら口にはできず、立場をわきまえた振舞いをしていても実ははとても重く、
深い思いを抱えてのものだったのです。
女性としての深い悲しみを抱えながらも自分のあるべき姿を見出していく姿は
とても強く、大きなものでした。
じっくり読むことおすすめします。
和子の母、江与の生まれから始まる、和子の人格を形作った血縁、環境といったものから語られる。
当時としてはまれな、一夫一婦を貫き、両親と子供たち、という家族に育ったこと(後に、腹違いの兄弟が発覚するが。)が、繰り返し出てくる。
その思いを、入内してのちも持ち続け、帝の他の女御への移り気に苦しみのたうつ。
帝の血を絶やさないための、御所では当たり前のことが、彼女には頭で理解できても心で理解できない。
誇り故に、帝にお渡りをせがむことをしない。
二十代後半以降、女として愛されないことで帝を恨むかのような記述は、彼女自身が招いたことなのである。
彼女は、満たされない心を、子の養育や着道楽で癒す。結果として、帝の親王たちの養い親となり、京の芸術家たちの庇護というかたちに実を結んでいくこととなる。
親王が即位し、腹を痛めた娘たちは関白家などに嫁ぎ、彼女の人格、影響力は晩年に至って帝も認めるものとなる。
けして政争に関わることのなかった彼女が、子の養育という形で他の女御たちに差をつけていくあたりから、光を浴びる如く浮上していく。
それでいて、彼女は仏教に深く帰依し、最期を聖人のように尼たちに見取られて長寿の一生を終える。
両親に愛されかわいがられ、心根の良い少女だったのだろう。帝に愛され子供を多く上げることが自分の役目だと思って、お渡りの途絶えを涙したのだろう。
帝の愛が受けられないのならと模索した後半生が、やがては帝の尊敬を勝ち得て実っていく。
血が天皇家に残らずとも、名を残した女性の物語。