国家賠償請求訴訟で県警側が敗北した、稀有の報告
★★★★★
本書は、単なる事件の再現や真相を取材したものではなく、主眼は国賠訴訟の原告側勝訴に至る、現場警察官の地域課と刑事課の縄張り争い、県警と山口の癒着と貸し借り、不祥事隠しの為の警察に都合のよい情報の記者へのリーク等を浮き彫りにする点におかれている。
被害者側・警察側の視点から事件の詳細が2度に亘って書かれており、7度もの被害者救出のチャンスをふいにした経緯がよく分かる構成になっており、決して著者が“警察憎し”だけの視点で書いていないと分かる。
桶川ストーカー殺人でさえも成しえなかった原告勝訴を、満額賠償という完全な形で成し遂げた本件について、読者は溜飲を下げるであろうが、原告は警察を訴えたくとも訴えられない仕組みを知るにあたって、やりきれない怒りもまたこみ上げてくるのではなかろうか?
次の、警察による被害者が、出ぬことを祈るばかりである。
不満な点として、ハードカバーでありながら、栞がついていない事をあげておく。
警察の誤算が一般市民にもたらす悲劇
★★★★☆
警察と言えども、その人たちにも背負う生活があるのは分かる。しかし、市民とは異なり圧倒的に優位な立場にある警察が、権限を行使しないで被害を拡大させてしまった。この神戸大学院生リンチ事件は、理不尽なヤクザの言いがかりで、警察に助けてもらえなかった一般市民の悲劇だ。
この本から、何故警察がここまで被害を拡大させてしまったのかが、動かなかった憶測を含めて語られる。その憶測の1つ「ヤクザは危害を加えても殺さない」という思いこみや誤算は、日本の犯罪が多様化してるのを現場では浸透してない象徴に感じた。
的確に冷静にその場の状況を見て、被害が拡大しない判断を下してくれると、市民は警察に期待してしまうが、これからの警察は組織でしかないのだろうか。