霊性を冷静にあおる
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ここ数年の間に現代社会の精神文化を読み解くためのキーワードの一つとなった感のある、「スピリチュアリティ」。その言葉で把握できそうな現象について色々と考察した本である。島薗氏は『精神世界のゆくえ』という著作ですでに、70年代以降のニューエイジ的なサブ・カルチャーのなかに新しい宗教現象の動きを見て取りその可能性と問題点をうまく分析していたが、今回は、さらに間口を広げて、社会運動(環境問題への対応やコミュニティづくり)とか伝統的宗教(寺社や教会)とか現代的な死の文化活動(死生学やターミナルケア)などとのからみにおいて、従来型の「宗教」の枠組みには収まらない、しかしきわめて「宗教的」といってさしつかえない人々の霊性(スピリチュアリティ)の諸相を論じていく。視野が広い。
ただ、視野が広すぎて、現在に生きる人々の精一杯がんばっている行動や意識や感覚ならば何でも「スピリチュアリティ」に含まれてしまいそうな気がして、学問的にはやりすぎだろう、という思いがぬぐえない。そして、そのような著者の視線そのものが非常に「スピリチュアル」でまぶしいなという印象があり、だから島薗氏は何か新しい宗教運動の興隆を冷静にだが確実に夢見て、それをあおり盛りたてようとしているように思われてならない。