雇用流動化論の盲点
★★☆☆☆
本書にて批判の対象となる解雇法制について、論者は政府による規制としてそれを取り扱うが、解雇規制は、そもそも自生的に生じた長期雇用システムという雇用慣行に応じ、判例法理によって形作られたものを事後的に法律の形にしたものである。つまり、長期雇用は一種の「均衡点」として存在しており、仮に強行法規としての解雇規制が廃止されたとしても、引き続き、「慣行」としてのそれは残されるように思われる。企業行動そのものを変えたいのであれば、そのような「均衡点」をまた別の「均衡点」へと移す荒療治が必要となるが、その場合は、それに伴う副作用も生じるだろう。
雇用流動化論で盲点となる論点は、そもそも物的な商品とは異なり、可彫性のある労働力商品の教育訓練を何が担うかというところにある。現在のように、企業内の教育訓練機会に拠るのであれば長期雇用は将来においても有望であろうし、職業別の労働市場が整備され、円滑な企業間の労働移動と民間教育機関や産別組合等による教育訓練機会が充実しているのであれば、ここでの論者が指摘するような方向への移行も考えられる。ただし、既に長期雇用が「均衡点」として機能している以上、後者ような方向に向けた経路は見当たらず、敢えて構造改革を断行すれば多くの不効用を生むであろうことが想像できる。