この本のメインは、寧ろベケットのテレビ作品にある。四つの作品が収められており、いずれも興味深い。『幽霊トリオ』や『雲のように…』の舞台装置の構造や、作品に引用されている詩や曲、二種類の『クワッド』など、思索を誘う事柄も数多くある。ベケットの創作の深まりを感じ取ることができる作品群だ。個人的には、『幽霊トリオ』の「誰もいない」という言葉の繰り返し、それの第二部と第三部の関係、『雲のように…』の終幕場面が気に入っている。日本のテレビ局が放送することはほぼ無いだろうが、一度実物(?)を見てみたいものだ。
シナリオというべきなのか、図面というべきなのか、何かほかのものなのか。いずれにせよ、ここに採録されているベケットの作品はどれもすばらし
い。特に、舞台製作者、役者、演出家、戯曲家、カメラマン、ディレクター、照明係などの、実製作者の人々に読んでもらいたいものだ。どれも短い作品だが、読みながら頭の中でじっくりと再構成していくと、一見土建屋の図面のようなシナリオがいかに音楽的で詩的なものか伝わってくる。さらに、そのあとにドゥルーズのうんちくを読めば、なんとなくわかった気にもなろうというものだ。