風太郎節は、脳に心地いい
★★★★★
風太郎先生が忍法帖だけの人だと思っていたら、大間違いです。
肩の凝らない、含蓄ある言葉の数々。
ああ、風流かな。
いつも作品の根底にある「人間愛」。
史上、悪人と呼ばれてきた人々を救済しようとする優しさ。
感服です。
こうした大きな心根をもつ大人の不在が、今の時代を悪化させているんだろうな。
うーん、あまり目新しくはなかった
★★☆☆☆
風太郎エッセイは面白いものも多いが・・。ネタの繰り返しを気にしないのが難点だ。
それに、本当に面白いネタは小説にしてしまうので、エッセイ・オリジナルは出がらしの観がある。
本書に収録された、信長・秀吉・家康論も、現在となっては常識的なもので、あまり面白くはない。
「ヒトラーは、日本人の誰よりも、日本の運命に影響を与えた男だ」という説は面白いが、これは、別のエッセイで読んだことあるし・・。
忠臣蔵の脇役に目配せしたエッセイも、発表当時は目新しかったかもしれないが、現在となっては、他の著者・論者に取上げられすぎて新鮮度を失っている。
ちなみに、「上杉家から吉良家への、助っ人武士のひ孫が、葛飾北斎」と風太郎は書いているが、この説にはあまり根拠がないようだ。
ボーナス・トラックの短編小説「安土城」も、光秀の反逆を扱ったもので、新鮮味なし。
優れた着想、冴え渡る推理
★★★★★
本書の白眉は、何と云っても第3部。(正直云って、第1部と第2部は付け足しのようにも思われる。)書名ともなった「秀吉はいつ知ったか」をはじめとして、いずれの稿も一読思わず着想の見事さと歴史推理の切れ味に唸らされ、全く古さを感じさせない。その信長論・秀吉論もなるほどと思わせる。個人的には、忠臣蔵のいわば敵役である大野九郎兵衛の零落を記した「敵役・大野九郎兵衛の逆運」と大石内蔵助の遺児である大石大三郎の放蕩と末路を描いた「大石大三郎の不幸な報い」の2篇が、人生の綾というか誰もが気になりつつも見逃しがちなテーマを拾い上げており、特に印象に残る。山田風太郎ファンならずとも、歴史好きの方は是非。
円熟期の歴史論
★★★★★
都市について、旅行記も収録されていますが、中心は歴史論と歴史人物論のエッセイです。執筆時期は作家としての円熟期にあたり、鋭さだけではない深みのある考察がなされています。
山風流の三傑解釈や英雄論はぴりりと辛口で痛快。
本書をふまえると『妖説太閤記』、『ラスプーチンが来た』、『柳生十兵衛死す』等がより楽しめるようになることでしょう。
さらに未刊行歴史短編「安土城」がボーナストラックとして収録されているので、お買い得。いつも素晴らしい仕事をなさる日下氏に感謝です!