流石は日下三蔵の編集。風太郎ファンにはおすすめの好エッセイ集
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『妖異金瓶梅』『明治断頭台』『甲賀忍法帖』といった無類に面白い小説を書いた山田風太郎の、ミステリ関連のエッセイを集めた単行本。【探偵小説の神よ】【自作の周辺】【探偵作家の横顔】【風眼帖】の四部で構成されています。
読みごたえあるミステリ作家の「おっ!」という作品を選び出すことにかけては名うての日下三蔵(くさか さんぞう)が編集を手がけているせいか、とても出来のいいエッセイ集でしたね。
ミステリ作家の立場からの考察が興味深い「探偵小説の<結末>に就て」。地の果ての獄の過酷で凄惨な歴史を綴って強烈な「今は昔、囚人道路」。この作家の死生観に粛然として襟を正す思いに駆られた「山田風太郎、<人間臨終図鑑>の周辺の本を読む」。なつかしの乱歩の面影が彷彿と浮かび上がる「私の江戸川乱歩」。
この四篇は、なかでも味のある、忘れがたいエッセイだったなあ。
山田風太郎という作家が根底に持っている虚無的な観念、ミステリ小説のどういうところを一番の妙味として捉えているか、敬愛するミステリ作家への気持ちのいい讃辞など、山田風太郎という作家や作品に関心のある読者にとっては、好個の一冊と言っていいのではないでしょうか。
ひとつ、「ちょっとわずらわしいなあ」と思ったのは、それぞれのエッセイの初出が、本書の最後の「編者解説」の中に記されていたこと。これは、各エッセイの末尾にでも掲載されていたほうが、わざわざそのたびに巻末の頁を開くこともなく、有難かったなあと。
日下三蔵さん、ありがとう
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今から25年ほど前、星新一『きまぐれ読書メモ』で、『風眼抄』を紹介していたのを読んだのが、山田風太郎を知った最初である。
数年後に中公文庫に収録されて読むことができ、果たして期待通り面白かった。
本書収録の「筒井康隆に脱帽」では、「ことしの直木賞は筒井さんにあげるといいな」などと、呑気らしく書いているのが風太郎さんらしい。
近ごろ評判の星さんの評伝を読むにつけ、星さんが風太郎さんのような心境でいらしたのだったらなあ、と思ってしまう。
ともあれ、本書の出版は日下三蔵氏の優れた仕事で、いつもながら有り難い。
解説によるとシリーズの予定らしいが、売れ行き次第のようにも見える。
続刊を期待する向きは、迷わず購入しましょう。
山田風太郎、迸る才気
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山風の既刊エッセイ集は、わりあい歳を経てから書かれたものばかりでした。
そのため油が抜けきったと言いますか、達観した人生観を淡々と綴った文章が多かったものです。
しかし本書は、まだ若く作家論や作品論を模索し、隠しながらも隠しきれない覇気を抱いていた時代のものも収録しています。
その鋭い論理にははっとするものが多く、さすが天才と唸らされるものがあります。
作品論や作家論といったエッセイも、まとまって読めるとなると興味深いものがあります。
親愛の念がにじみ出た乱歩、横溝正史、高木彬光、阿佐田哲也らを語る文章の数々。
筒井康隆について書かれた二編は、この二人は似たもの同士だとわかって興味深いものが。
改めて山田風太郎の才気と情熱を発見できる、ファン必須の一冊といえるでしょう。