高度の体系書
★★★★★
公務員・法曹実務家なら誰でも知っている・持っている教科書の第5版。平成16年行訴法改正の中心にいた第一人者の著作です。
受験時代はこれを一生懸命読んだし「わかった」と思ってはいた。
しかしいま実務の合間にこの最新版を読むと「これはかなり難解」。細部が詳細なうえにマクロの見方を注で書こうとしたりしているのはムムムリでは?
★ 新しい判例を押し込んであるので、頁によっては理解が大変です。ほとんど意味が取れないぐらい書き込んである頁もあります。
といっても宇賀先生におそわった世代がいま裁判所でバリバリやっているので宇賀先生のテキストがもてはやされる
傾向がありますが、個人的にはこちらのほうが理論判例ともに微妙に勝ってるとおもいます。
宇賀先生は塩野理論を越えようとしているがまだ塩野先生も柔軟性を失ってはいない(頭髪は失っているが)。
父に聞くと生協地下で販売の講義案の頃は解釈の基本は裁判所べったりだったらしい。
けど、この5版はかなり最高裁に異論を述べたものになっています。
★ 例 141頁注6 最判平成21・10・15は間違いだと断じている。
意図的に解釈の空白(行政法の第一人者の影響力を考えた謙譲主義というべきか)を作りだす書き方をされているところもたくさんあります。
ここが絶妙のバランス感覚で、ペエペエのかけだし弁護士にもすごいなあとうならせるところ。バランスというか自制というか。
★ 4版に比べると30頁ぐらい増加している。
★ 新判例の紹介(この著者は特定の判例を本文でかなり詳細に引用するだけでおわるクセがある)と
改正審査法(案。今国会で審議未了)などの解説が増加の理由。
新判例についてはかなり細かい解釈が展開されています。ここだけでも一見の価値あり。
★ 文献が追加されている。かなりのご高齢なのに主張の要約がそれなりに書いてあるのには感心する。
学説優位の執筆態度は変わっていないと思われる。つまり、裁判実務より学説重視型。
ただしあくまで塩野説補強のために他学説は引用されているのに注意。
民事訴訟法の解釈の引用は主に新堂説 これは相当に不十分ではないかとおもう。
新堂先生の本が先端にあるとはいえないのでは?
例 権力的妨害排除訴訟(252p)の提案 → もうすこし訴訟実務的なテクニカルな部分を詳しく書いてほしい
義務付け訴訟が先行するとだけ書かれても実務的な対応がよくわからない
S56・12・16最高裁大法廷判決への根本的疑問は誰でも持っているので。
★ 立法の動向に歴史的変遷を入れた記述がいたるところにある。
田中二郎からの伝統的な解釈論を維持する立場で、それなりの安定感のある主張がされている。
★ これを読んでおくと、行政機関からどういう解釈運用が出てくるかをある程度予測できる。キャリアの立案者はたいてい読んでいるから。
★ ただし、塩野先生独自の構想もあちこちにある。例 開放的抗告訴訟観 82pなど。
もっともその新構想(提言)が、現場の解釈にどう結びついているか・つけることができるか? やや疑問。
本文をしっかり読んでもなかなか解釈のレベルでの新機軸だとは思えないところ多数。
★ 現行の行政判例百選12とタイアップしている。学部や法科大学院の教科書として利用価値が高い。
ページ数(本文389p)は適量。
細部に溺れカネ儲けだけを計算してしまう法律実務家にも反省の機会を与える好著
行政実務の方向性を考えさせる書き方で、随所にわれわれに内省を迫る迫力があるのはさすが。
もちろんしっかりした勉強をしたい受験生にも適するとおもう。ただし難しい本ですよ。ホントに理解するには。
受験用のものばかり読んでいて全体を見失ったときにはいい読書体験を与えてくれるはずです
出版年度が一番新しいので国家試験には一番使えるものなのかも。