「シャープ・シリーズ」の2作目です。時代は19世紀の初頭。主人公のリチャード・シャープはロンドン最下層出身の半無頼漢ですが、志願して兵卒となり、インドでのキャンペーンに従軍しています。前作ではマハラタ軍との戦いで手柄を立てて下士官となりましたが、本作では、アーサー・ウェルズリー(後のウェリントン公)率いる遠征軍に加わり、マハラタ同盟とのAssayeの戦いに参加します。このウェルズリーの描き方にはたいへん興味深いものがあり、現代イギリスから見た歴史的ヒーローのイメージがハッキリと示されているように思います。このほかにも、祖国を裏切ってマハラタ精鋭部隊を率いるドット大佐、友軍内での天敵ハケスウェル軍曹、仏人マハラタ将校の美しき未亡人シモーヌなど、魅力溢れるキャラクターが登場し、彼らの織り成す数々のエピソードの中、主人公は、戦士としての威信や個人的な恩讐をかけて決戦の場に臨みます。
このシリーズは綿密な時代考証に基づいて組み立てられており、ディテールへのこだわりには相当なものがあります。英国軍と東インド会社軍との違い、ラインを組んでの攻撃の態様、マスケット射撃と銃剣突撃の関係、当時における騎兵や砲兵の運用などがビビッドに描かれており、軍事史ファンには堪えられません。
日本でのファンは必ずしも多くないと思いますが、ナポレオン期の戦争に興味を持つ歴史ファンの方々には是非お勧めしたい一冊です。