差別化というトピックでは、サンウッド、日経新聞、ホンダ、ポーラ化粧品など多数の成功例をあげながら、「類推」と「順列・組み合わせの変更」という差別化の思考法を紹介している。さらに、独創的なビジネスモデルを生み出すには、儲けの仕掛けとしての「回収エンジン」が不可欠だと指摘。差別化のアイデアはあるが「回収エンジン」がないビジネスは、ITブーム時の「ドットコム企業」のような失敗をたどると論じている。
また、ビジネスパーソンが最も大切にすべきは「信頼」だと強調している。「能力の不足は、他の人間に補佐させるとかの方法をとればなんとか補うことができるが、信頼の補充は絶対にできないのだ。信頼され、仕事を与えられてはじめて能力を発揮するチャンスも出てくるというものではないか」と述べ、自らが周囲の信頼を得て成長したエピソードを披露している。そして、本書の主題である組織づくりについて述べた部分では、より具体的に、優秀な人材を中途採用する方法や、能力主義・成果主義をポストと報酬で使い分ける人事制度、会議や意思決定を形骸化させない方法などを提案している。
本書に一貫しているのは、「改革とは『心』の問題である」というように、心や人間性を重視し、特別な能力をもたない人間でもそれを磨くことで勝ち上がれるという著者の信念である。自信を失っているリーダーには貴重なアドバイスとなるだろう。(棚上 勉)