アメリカは地球だけでなく、手近に残された最後の非武装スポットである天空を、軍事上の勢力範囲に仕立てようとしている。ブッシュ政権にとって、大地と空は、帝国主義的支配の最後のフロンティアだ。『Hegemony or Survival』でノーム・チョムスキーは、われわれがいかにしてこのような状況にいたったか、われわれはどのようなタイプの危険に陥っているのか、そしてわれわれの支配者はなぜ人類の未来を危機にさらそうとしているのかを探り出す。
トレードマークである見事な論法でもって、チョムスキーは世界の覇権をめざすアメリカの姿勢を詳細に吟味し、なんとしても「完全なる支配」を達成しようとする米政府の攻撃的な政策を追跡する。宇宙の軍事化、弾道ミサイル防衛プログラム、一方的軍縮論、国際的合意の解体、イラク危機への反応など、多様な要素をもつ政策がどのように究極的に人類の生存を危うくする覇権主義への衝動と結びついているかをわかりやすく説明する。われわれの時代において、帝国主義は地球を不毛の地に変えてしまうとチョムスキーは主張する。
明快にして厳密な記述と、徹底的な論証に支えられた『Hegemony or Survival』は、今後何年もの間、チョムスキーのきわめて重要で包括的な著作として、幅広い論議を巻き起こすことは確実だ。
本書で著者は、アメリカ政府と全世界の世論が現在の二大勢力である、と説明する。残念なことに後者が完全に無視され強行されたイラク戦争だが、「悪の枢軸」の中でイラクが最初に攻撃された理由が列挙されている。また、アメリカでは、「テロを回避するにはテロに参加しないこと」という自明の理が十分に理解されていないのが現実であり、そのアメリカを「世界最大のテロ国家」と断言している。さらには、昨今話題にあがっている宇宙における軍備化の恐怖にまで言及している。
2004年11月に行われる大統領選挙の一年前に出版されたこの本は、まさに著者の危機感と愛国者としての良心の表れであろう。歴代大統領の外交史(内政干渉史?)を知る上でも、未来を予測する上でも、良書である。