本書は、「ユーザー・ファースト」な企業になるための社内に必要な対応を、経営方針、組織体制、テクノロジーの3つの視点で(第1章~第3章)、ユーザーとの接点を製品、マーケティング、セールス、サポートの4つの視点で(第4章~第7章)、豊富で詳細な事例をあげながら説明する。経営書として正統的なアプローチであり、何をすべきかをまとめたプレイブック(作戦指南書)としての配慮も行き届いている。Amazon、サウスウェスト航空、HP、アップル、IBM、デル、FedEx、グーグル、ウォルマートなど事例掲載。
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シンプルな言葉、シンプルな概念であるほど、新しい意味を付与された時のインパクトは大きい。業界や企業規模を問わず「ユーザー・ファースト」という言葉は、デジタル時代に卓越企業であるための基本理念となるだろう。
私たちは通常、コンシューマー(消費者)とカスタマー(顧客)という概念で市場やマーケティングを考えている。本書が提示しているのはそのどちらでもない。普段なにげなく使っている「ユーザー」という言葉を、メディアとテクノロジーを利用して企業とやりとりをするすべての人々と定義し、経営戦略にとって重要なコンセプトの中核に据える。そこには商品やサービスを購入している顧客だけではなく、見込み客やブランドのファン、インフルエンサーから求職者まで含まれる。
あなた自身と様々な企業との関係を考えてみれば自然なことだとわかる。商品やサービスを使ったことがなくても、好きな企業や気になる商品はある。フェイスブックのニュースフィードに流れる企業コンテンツに共感したり、友人が話していた新しいクルマについて検索してみたり、価格比較サイトで想定しなかったブランドを知ったりする。つまりデジタルを通して私たちは無数のブランドと交流しているのだ。
現在の売上や利益をもたらすのは顧客だが、持続的なビジネスに本当に重要なのはこうした人々の日常行動である。彼らへの対応が上手くできていれば、顧客は自然に増えて行く。だからカスタマー・ファーストでは不十分というのが本書の主張だ。
それにはコアビジネスを包み込むように存在する「ソフトウェア・レイヤー」、すなわち企業と人々の間にあるデジタル接点の管理が不可欠である。つまり、ユーザーとは多種多様なデジタルチャネルを「使っている」人々と言い換えてもよい。
顧客の貢献が売上データとして表れるのに対して、ユーザーの貢献を可視化するのが、アクセスログやソーシャルメディア上のテキストなどのソフトウェア・レイヤーに残されるフットプリント(足跡)であり、その重要性も強調されている。近年注目を集めるDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)によるアプローチ最適化、アクセスログによるユーザビリティ改善やコミュニティの運用など、デジタルマーケティング技法とはデジタル・フットプリントの活用に他ならない。
日本では企業がメッセージを消費者へ伝えることには極めて熱心である。自分のいいところ、伝えたいことを理解してもらうために、広告費や販売促進費という形で巨額の予算をつぎ込んできた。企業がターゲットを設定し、そこに向けて説得することがマーケティングの中心であった。2013年6月に来日したフィリップ・コトラーは「日本企業の停滞は、マーケティング4Pのうち1P、すなわちプロモーションのみに依存してきたから」と指摘したほどだ。
だが近年、企業サイトやソーシャルメディアが登場することで、多くの企業に交流という考え方が浸透し、逆のベクトルを重視するようになっている。広告クリエイティブでも商品・サービス開発でも、データや観察から相手のニーズを理解する、あるいは本人も気づかない無意識を読み解くインサイトの重要性が認識されつつある。企業はメッセージを伝えるだけではなく、相手を優先し、要望を受け取とめ、経営戦略につなげていく。それもまた「ユーザー・ファースト」という言葉の持つメッセージなのである。
本書の構成はシンプルだ。ユーザー・ファースト企業になるための社内に必要な対応を、経営方針、組織体制、テクノロジーの三つの視点で(第1章~第3章)、ユーザーとの接点を製品、マーケティング、セールス、サポートの四つの視点で(第4章~第7章)、豊富で詳細な事例をあげながら説明する。経営書として正統的なアプローチであり、何をすべきかをまとめたプレイブック(作戦指南書)としての配慮も行き届いている。
オリジナルは2011年の発売で、当時ホットな話題になったブランドやサービスが中心だが古さはまったく感じさせない。シンプルでありながら時代の転換と企業がとるべき戦略の本質をとらえているからだろう。
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