「ヒステリー研究」は文庫本でも読めます
★★★☆☆
岩波書店から刊行中のフロイト全集です。
これまで人文書院の「フロイト著作集」はありましたが、全集の刊行は本邦初になります。
フロイトの心理学的著作を年代順に網羅して全22巻の構成になっています。主な底本はドイツ語版全集(Gesammelte Werke)ですが、「失語論」など日本語版のみの著作も含まれています。
翻訳の信頼度は著作集に比べると格段に上がっているようですので、これからフロイトを読もうという方は、やはりこちらの全集を読んだ方がよいでしょう。著作集は割引販売などされていてお得にみえますが。
全巻で統一された重要な用語は、著作集などで親しんだものとはかなり変更されており、違和感があります。例えば、欲望(願望)、想い出(記憶)、快原理(快感原則)、リビード(リビドー)などです。(カッコ内が従来の訳語)
脚注や書誌事項は、翻訳者にもよりますが、独語版や英語版全集からの引用が多いです。
本巻に収録されている「ヒステリー研究」については、すでにちくま学芸文庫より金関猛氏の翻訳が出ていいます。この文庫版がとてもすばらしく、特に脚注と解説が非常に充実しています。一方、本巻の脚注は翻訳の説明とドイツ語版・英語版の注釈の引き写しがほとんどで、解題もあっさりしています。先に出ている文庫本に全集が負けているというのでは困るので、この巻については星3つとしました。
収録著作
●ヒステリー研究
月報9
ビネのフェティシズム論 小倉幸誠
タナトスの影の下に――フロイトとシュテーケル(二) 平野嘉彦
アセファルと父殺し――バタイユとフロイトをめぐって 岩野卓司