ベケットらしさ、らしくなさの両方を感じさせる本
★★★★☆
『初恋』は倒錯的な語りとセンチメンタリズム、砂っぽい枯渇と小雨の湿っぽさが混在した小品。三部作ほど突き抜けていない感じはしますが、いままで持っていたベケット像にあらたな一面が加えられたという意味で好きです、個人的に。
『メルシエとカミエ』は本の帯にもあるように、『ゴドー』を小説にしたような感じです。よってふたりの会話のずれと調和の堂々巡りがおおきな魅力です。しかしながら地の文においても順列組み合わせやパラノイア、突然の暴力など、その後の小説作品の萌芽は充分楽しめます。
両作品とも、のちのベケットにはないリーダビリティを感じました。その点で、特に小説三部作が大好き、なんて(私のような)人には多少物足りなさも感じさせるかもしれません。よって大好きな作家の作品ですが、マイナス星1点。