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独りの男が二人 せつない話

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カテゴリ: Kindle版
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 正直、興味は薄れていた。それでもせっかくマスターが電話をくれたのだから、とバーに足を向けた。挨拶くらいしてやろう、そんな風にしか本当に思っていなかったのだ。店に入ると、福岡はこちらに背を向けてビールを飲んでいた。マスターは奥で何かやっていて、だから少しの時間、店の中の様子を観察することができた。他にも数人、客がいて飲んでいた。一人の男もいる。なのに、誰も福岡の方を見ていなかった。相手にされていない、というのがすぐにわかる雰囲気なのだった。きっと怖い顔でにらむように人を見るから、避けられているのだろう。僕は思わず口の端を笑わせて、福岡の隣に腰掛けた。福岡はまたにらむような目で僕を見据えた。
「こないだはどうも」
 そう言って笑いかけてやると、福岡はちょっと首をひねってから、うなずいた。
「ああ、あの時の」
 とたんに顔をくしゃくしゃにして笑い出したのだ。まさかこんな表情を隠し持っているとは思わなかった。
 かわいい顔するじゃん。
 僕は気分をよくして、少し福岡に寄って座り直した。するとカウンターの下で、福岡の太ももが膝にぶつかった。

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 いかつくこわい顔つきでひとをにらむように見る男。しかし本当は照れ屋で人なつこい。セックスも受け身でタイプだが、母親の介護をしているだとかでデートの最中でもいきなり帰ってしまったりする……。孤独な大人の男二人の恋物語。
 初出『バディ』「せつない話」シリーズ二作目。続き物ではありません。読み切り短編。