感じやすい中年たち
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感じやすい中年たち紹介文
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また一人、となりの壁に中年男がやってきた。
お、これはなかなか……。
一目見て、そんなオジンくさいこと思ってしまった。年令は四十代半ばくらい。がっちり太め体型で、僕より五、六センチ背が高い。スラックスにポロシャツという格好がまたおじさんぽくてよく似合っている。顔は渋目で男臭い。全身から「やらしい中年男オーラ」を発している。その人が僕の耳元で言った。
「よかったら、あっちでちょっと話さないか?」
当然、僕はうなずいて、おじさんの後ろについていった。壁の花してる他の男たちの視線が痛かった。通路の奥、ハッテンスペースになっている女子トイレの前で、僕たちは相手の顔や体型をまじまじと見つめあった。おじさんが言った。
「君はぼくのタイプだよ。ぼくはね、よっぽどタイプのコじゃないと、声かけないんだ」
こういうこと言われた時、なんて答えればいいのかよくわからない。ま、いい気分ではある。
「君、いくつ?」
「あ、こないだ二十歳になりました」
「大学生?」
「はい」
「どう? ぼくみたいなので、いいかな?」
そう言って、おじさんは女子トイレの中を指差した。額を少し光らせた中年男が、スケベなニヤケ顔で僕の目を覗き込む。僕は勃起した。おじさんはジーンズの上からそれを見て取ったのか、僕の手をとってトイレに入り、個室のひとつに僕を押し込めた。一瞬見つめあってから、僕たちは抱き合ってキスをした。
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ちょっと生意気な二十歳の学生と四十代半ばの社長さんが出会い、付き合うようになる。社長さんは妻子持ち。見た目は渋くがっちり太めの体型。主人公にとって理想のおじさんと思えたが……。
平成初期が舞台のお話。
ハッテン映画館での出会いを描いています。いまは廃れつつありますが、当時、その手の映画館は日本のゲイにとってスタンダードな出会いの場のひとつでした。当時の雰囲気もあわせてお楽しみください。
初出『バディ』。だった気がしますが定かではありません。読み切り短編。