依然として見えない全体像
★★★☆☆
自身も鍼灸師であるという著者が,80人あまりの日本全国の鍼灸師へのインタビューを通して,最近ブームだと言われる鍼灸の現状と可能性を浮き彫りにしようとしたもの。
なるほど,研鑽を重ね,あるいは新しい試みに挑戦している,名医と呼ばれる鍼灸家が数多くおられることに心を強くした。
しかし,この著書を通して浮かび上がってきたものは,鍼灸という伝統医療の活発で盛んな状況と言うよりも,むしろ無数の会派・流派が乱立し,各治療家がてんでに調子の良いことを言い合っているような雑然とした状況ではないだろうか。
確かに第4章で述べられているように,「ランダム化比較試験」などの厳密な方法により,鍼灸の効果を客観的な形で実証しようという事もなされてきているようである。
しかし,鍼灸が有効な医療行為だとしても,一体どの程度有効なのか,どのような疾患に有効でありまたどのような疾患に対してはそうでもないのか,事実として治癒にどのくらい時間がかかっているのかなど,最も患者が知りたい,医療としての全体像が依然として見えてこないのだ。
また「西洋医学が見放した重症患者が,一本の鍼でたちどころに治った」といった奇跡の医療的なエピソード多いのも気になる。
エピソード集ではなく,どのような患者がどのような治療で何人中何人治った,と言った鍼灸治療の客観的な全体像を早く明らかにして欲しいと願うものである。
テーマは興味深いが,途中で飽きた
★★☆☆☆
最近腰痛で鍼に通い出したので,ふと本屋で手に取った。最初はおもしろかったが,どこそこのある先生は○○という技術を持って××という症状を治療したという「お話」が列記されているのみで,岩波新書に期待するような合理性にはほど遠い(失敬!)。ただ,筆者自身もそれを自覚されているようで,EBMについて鍼灸業界での挑戦についても紹介している。
ともかく,全体的に逸話的で,鍼灸についての体系的な記述に欠け,途中で読むのに飽きた。もう一つの印象は,こうした本が評価(業界誌で受賞)をうけるということは,この業界自体に基準となる評価がなく,知的体系が形成されていないことを示唆しているのではないだろうか。
奥深い鍼灸の世界
★★★★☆
一本のはりとひとつまみのモグサで万病に対処する鍼灸術は、代替医療への関心が高まりを背景に注目されているそうだ。ただしそれは本家の中国や米国における話で、日本では明治維新で伝統医療が否定されて以来、正当な評価が与えられていないようだ。その中でも民間で鍼灸医療の発展に尽力している方々は多数存在しており、本書は、数多くの鍼灸師へのインタビューを通じて鍼灸の奥深い世界の一端を教えてくれる。
鍼灸の考え方は、鍼灸により病気を治療するのではなく、人の体が本来有する治癒力を高めることにあり、結果的に病気が治ることになる。だからこそ、特定の病気をターゲットにする西洋医学とは異なり、あらゆる病に対処することが可能となる。従って鍼灸のターゲットは病人だけではなく、健康な人が病気になるのを未然に防ぐことにも及ぶことになる。
自分自身が長年の肩こりに悩んでおり、最近症状が悪化していることもあり、非常に興味深く読んだ。半年ほど前に一度鍼をためしたことがあるが、整体を本業とする医院であったため、治療自体は気持ちよかったが大きな効果はなかった。今度は鍼灸を専門とする医院にあたってみようかと思っている。鍼灸の場合は特に技量の個人差が大きそうな感じがするためいい先生を見つけることが大切と思うが、少なくともしっかり脈を見るなど問診をきちんとしてくれるところでないとダメなようだ。本書にはインタビューした日本全国の医院が巻末に掲載されているので、いい医師を探している人の参考になると思う。
この本はフォークロアだと聞いて
★★★★☆
ある先生が、「この本はフォークロアですね」、そういっていた。はて?どんな本なんだろうと思い、さっそく買ってみた。
なるほど。たしかにこれは面白い本だ。何も知らない人は特に読んで面白みを感じるはず。専門家にも一応、必読の本だと思う。
でも、たしかにフォークロアでしかないよね。
はりが治すのではない。自然治癒力が治すのだ
★★★★★
共同通信編集委員でありながら、自らの病をきっかけに夜間の鍼灸学校に通い、卒業後は脈診を重視する古典派の研究会に参加してきたという著者が、10年間の鍼灸会との交わりや内部観察をへて、共同通信加盟紙に連載した日本各地の鍼灸師の訪問記総決算。
行間から活字にならなかった多くの取材が滲み出ていた。「日本鍼灸界のサムライ」たちを、様々な流派、技法、信念を超えて描き出し、古代から現代に受け継がれてきた伝統医療、鍼灸の素晴らしさを教えてくれる。また巻末に掲げられた鍼灸師のリストも有難い。
自然感覚、宇宙感覚、自然治癒力、タオイズム。生物とはいかに神秘的な存在なのか、我々はまだほんのわずかな知識しか持ち合わせていないのだと思わずにはいられなかった。読んでいるだけで、詰めていた息を吐き出し、穏やかで優しい気持ちになっていく自分を感じた。