挫折を乗り越えた音楽家の語る「出会い」と「別れ」
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人気美人演奏家の、マッタリとしたエッセー集・・・かと思ったらと〜〜んでもない!
12 才でデビュー!師である故江藤俊哉氏との壮絶なレッスン風景や叩き込まれたプロ意識!音楽に挫折して20才からの2年間は楽器を捨てた!26才からの2年 間はNHK-TVの報道番組でキャスターとして世界を飛び回った!幼かった少女は様々な出会いと別れを通して人間として成長し、ローマ法王のヴァイオリン と運命的な出会いを果たして僕(しもべ)となる・・・。
大雑把に言うとこんな感じの、大変ドラマチックな内容で驚きました。
訥々とした文章や、過去のエッセーなどを集めたこともあってか?ちょっとまとまりに欠けている面もありますが、書かれている内容が、著者の苦しみや喜びを率直に綴っていることもあって引き込まれました。過去の、家族や恩人たちとの辛い「別れ」。音楽を捨てた「苦しみ」。再起してもつきまとう「迷い」や「不安」の中、自分の演奏に涙する人たち等に接する内、音楽家として生きることの「意味」や「喜び」を再発見していく様子等が書かれていて感動的です。
またマスコミでも報道された愛器「デュランティ」と の出会いも語られていますが、ローマ法王庁からフランスの貴族やスイスの富豪の館へと渡り、300年間まともに演奏されなかったストラディヴァリウスという珍 品振りもさることながら、恐ろしいほどの繊細 さと、著者の「僕」(しもべ)に徹した接し方にも驚かされます。
音楽を捨てた音楽家は、どれほど苦しむことになるか?「華々しい」と思い込んでいた女流演奏家が、実は大変な人生 を送ってきたという事実を前にちょっとたじろぐ面もありますが、それだけに音楽に対する切実な「思い」も伝わって来ます。
共に「生きる」楽器に対する「カンタービ レ!」(歌って!)という著者の囁きが聞こえて来る・・・そんな本です。
ロボットから人間へ、そして、ストラディバリウス「デュランティ」と歩む真の芸術家への軌跡
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「ロボットから人間になりなさい。人間の複雑な感情を一つずつ覚えて、心は育ちます」。高校一年生の千住さんに手塚治虫先生が語った言葉ですが、以下のテーマがとても深くて瑞々しい情緒と感性で描かれています。
クラシック音楽や芸術がが好きな方にはもちろん、それらに余り興味が無かった方にも、これから芸術(音楽・人間)を深く知り愛するきっかけとしてお薦め出来ると思います。
※表紙と裏表紙の千住博氏の絵もまた静寂と時の流れと生命感を感じられ秀逸です
・挫折と成長、キャスター時代
・愛犬リリー、祖父、恩師達、16歳から千住さんを支え導いたファン梶木重人さんとの想い出と死
・ストラディバリウス(スパニッシュ・カルテット、デュランティ)との出会い
・音楽家評(デュプレ・モーツアルト・ベートーベン)
・演奏家との想い出(シノーポリ、アイザック・スターン、ルジェロ・リッチ)
以下、文中より
「私の自分勝手な考え方になることを承知で言うなら、彼は、私がヴァイオリニストとしてデビューし、一人前のヴァイオリニストとして軌道を定めるまで、私を導く為に生まれてきてくれた気さえする」
「彼の青春も、私の青春も、音楽と言う純粋なものを媒体に共鳴しあっていたに違いないと思った」