ペダンティックな医療経済学
★☆☆☆☆
さまざまな学派の経済学が紹介され、経済学の概念が使われているが、無駄な叙述が多すぎる。
経済学でいえば、マクロ理論、ミクロ理論、古典派、新古典派、厚生経済学、ケインズ経済学、ゲームの理論、組織の経済学、行動経済学、制度学派、経済学者で言えばスミス、セイ、ハイエク、シュンペーター、ウェーバー、ヒックス、宇沢弘文などなど。用語で言えば、合理的経済人、無差別曲線、パレート最適、市場の失敗、公共財、費用対効果、情報の非対称性、ナッシュ均衡、囚人のジレンマ、創造的破壊などなど。まさにオンパレードであるが、内容がつぎはぎだらけで、説明の仕方にまったく一貫性がない。
全体として都合のいいところを引っ張ってきているだけで、経済学の理解はあらっぽく、お粗末。こうした経済学に関する叙述の部分を削除して、現代の医療制度の問題点を整理して解説してくれたほうがずっとよかった。
取っ付き難い経済学を医療という切羽詰った題材で解説した良書・・だと思う
★★★★☆
全ての患者がセカンドオピニオンを求めるようになれば医療の質(量に裏付けられた)は半分になる。私がこの本を手に取ったのはこんなブラックジョーク(?)を目にしたからでした。患者の知る権利を尊重し良かれと思った政策がこんな結果を招く(現実かどうかはわかりませんが、ただの風邪でドクターホッピングを重ねる患者は本当に専門的な医療を必要としている重篤な患者にとっては迷惑な存在でしょう)なんて厚生労働省のお役人(?)は予想できていなかったでしょう。極論かもしれませんが、いままでの日本の政策は法律重視で、経済学(というよりは数学)的な考察を欠いていたのではないでしょうか。社会の全てが、数値化でき、その動きが予測できるとは思えませんが、少なくてもこれからは、そんな数学的思考が非常に大切になると思います。この本の入門書・一般向けの啓発書らしからぬ「まっとうさ」は、本当に学問的に社会現象を切り、責任ある立場で語るのであれば、この程度の基礎知識は必須であると言うことだと思います。法律や政策を立案するのに最終的に必要なのはジャーナリズムではなくサイエンスであるべきと思いますから。あ、偉そうなことを書きましたが、このことが私がこの本を理解したということは意味しません。残念ながら。
退屈な授業
★☆☆☆☆
少なくとも「入門○○学」とタイトルを表している以上、読み手のスタンスを意識する必要があります。難解な問題を平易に解説するのがいわゆる「入門書」であるという認識に立てば、本書はその目的を達成できていません。著者に膨大な知識があったとしても、それを上手く伝えられなければ、地中の宝に過ぎません。わかる人だけが、わかればいいのさと言うスタンスこそが現代医療が不信を抱かれる根源であることを著者は理解しているのでしょうか?
学生時代、テクニカルタームだけをダラダラと解説して、実際の行動には殆ど役に立たないような十年一日の如くの退屈な授業がありましたが、それを思い出しました。私のレビューはいわゆる「酷評」と言って良いと思いますが、タイトルを見て内容にとても期待していただけに残念ですが仕方ありません。大量のレファレンス(参考文献リスト)がせめてもの救いでしょうか・・・
経済学のテクニカルタームをいちいち持ち出すまでも無いような事柄も敢えて、そうした記述がなされています。
例えば、p117-118
『旧来の医療の目標は、患者の利益の極大化、および医療提供者である医療機関の利益の極大化であった。そこに現在では医療費抑制のための予算制約が加わったといえよう。すなわち、今までは多くの無差別曲線上で医療行為が行われていたが、そこに予算制約が加わったために、行いうる医療がかなり限られてきた。これは、価値判断の転換を強いられているともいえよう。・・・』
高々、こんな事の説明にわざわざ「無差別曲線」の概念が必要なのでしょうか?全238ページの書籍のおよそ半ばである117ページにようやく、この記述であり、最初から、それを一体どうすべきかと思っている読者にとっては、いつまで「前置き」が続くんだよ!という感覚を持たれても仕方がないでしょう。引き続き我慢して最後まで読んでも、何ら新たな視点が展開されることはなく、どういう立場の人にとって有益な書籍なのか疑問です。少なくとも現場で臨床に従事している者にとっては分かり切ったことをわざわざ小難しく説明しただけの内容であり、読むだけ時間の無駄だと思われます。
張り切って詰め込みすぎた好例。
★☆☆☆☆
レビューを書こうとページを開けて驚愕。これを良書として理解できた方々がこんなにおられるのか、と。自分の判断に急速に自信がなくなったが、そういう評価も参考にはなるかもしれない。
経済学には門外漢だが、だからこそ取り掛かった「入門」。しかし、率直に言って盛り込みすぎである。「医療経済学とは何か」から始めて具体例まで、この著者の書きぶりでは、新書の体裁は小さすぎるし、新書という出版形態の意義に合わない。ハードカバーを出した方がよかったのではないか。医療という応用分野に携っているが、医学から出発した自分でも、こんなに経済学の基礎理論がわかっているのだ、これだけ経済理論を勉強したのだ、ということを書きたい気持ちはわからないではないが、何もここでわざわざ「ケインズ経済学」とか「シュムペーター」と引用しなくてもまとめられる、というような箇所で、煩雑に細かい専門用語や解説を重ねてくる。結果、今何が問題なのかも見えてこないし、学としての医療経済学のあり方もすっきり伝わってこない。閉じて、「はい、よくこれだけ勉強しましたね」と星一つ。「いのち」と効率を両立させうる理論(になっているか?)の「体温」を、まったく感じることができなかった。
良書である。医療サービスという財をいかに分配(配分ではなく)するか‥を考える端緒に。
★★★★★
「医療に市場効率を導入せよ」と言う人も、「医療がサービス業である」と気付けない人も
医療と経済学との関係性を正視していない事が多い。それは、そのような人々が医療や経済学を誤解しているから‥と思うのは私だけだろうか? 本書はこの誤解を解くのに良書。とはいえ、新書一冊で「経済」と「医療」という一般的な通念上は矛盾し勝ちなふたつの世界の関連性を示すのは、じつは相当に無理がある。本書は、「医療」を財として捉えたとき、それをいかに分配するのがよいのか‥という問題提議もあり得るのだという事が分れば、おそらく読む目的は達成されるのだろう。