詳細な註と解説が役立つ
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『方法序説』は、短いけれど、簡単に読める書物ではない。デカルトの学問観、哲学観、人生観、そして彼の哲学のエッセンスが濃縮して述べられている。正確に理解するためには、例えばジルソンの厚い注釈本のように、註と説明が必要になる。本訳は、その点で大変ありがたい。翻訳そのものは、野田又夫の明晰で格調高い名訳があるが、他の新しい訳も読みやすく、そう違いはない。第三部の第二格率を述べた有名な箇所を比べてみよう。(野田訳)「どこかの森に迷い込んだ旅人たちは、あちらへ向ったり、こちらへ向ったりして迷い歩くべきではなく、いわんやまた一つの場所に留まっているべきでもなく、つねに同じ方向に、できるかぎりまっすぐに進むべきであって・・・」 (谷川多佳子訳)「旅人は、あちらに行き、こちらに行きして、ぐるぐるさまよい歩いてはならないし、まして一ヵ所にとどまってもいけない。いつも同じ方向に向ってできるだけまっすぐ歩き・・・」 (山田弘明訳)「旅人がどこかの森で道に迷った場合、かれらはあちらへ行ったりこちらへ行ったり、ぐるぐる回ってさまようべきではないし、ましてや一つの場所にとどまるべきでもない。むしろ、いつも一つの同じ方向へできるだけまっすぐ歩き続けるべきであって・・・」