犯罪ノンフィクションとしても
★★★★★
ミシェル・フーコーが発掘した19世紀の殺人者ピエール・リヴィエール。母と妹弟を殺害した若者をめぐる当時の裁判記録には、狂気と法をめぐって権力がいかに発動するのかが克明に記録されていた。フーコーらは言説と証言と問題、法の問題、宗教の問題、精神医学の問題、農村の問題などとして丁寧に分析しています。
しかしなっといってもすごいのは、フーコーたちが彼に注目するきっかけになったという本人による手記。父を尊敬するピエールは、母がいかに金銭問題で父を困らせたかを執拗に描きます。革命後のフランスの貧しい農村で起こっていた生々しい愛憎劇。利発な青年が3人を殺さざるを得なかったのはなぜか。トルーマン・カポーティ「冷血」や、日本なら「八つ墓村」のモデルになった筑波昭「津山三十人殺し」などを彷彿とさせる犯罪ノンフィクションとしても傑作です。
現代思想に縁のない方でも楽しめること間違いなし。