高邁な詩精神、ゆたかな情感、きらめく宝石の言葉―
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ヘルダーリンよ…! 嗚呼、ヘルダーリンよ!! と呼びかけたくなる瞬間が、しばしばある。その、華美で情感ゆたかな散文の中の散文、詩文の中の詩文を書く―本文庫本の帯で謳われているような―‘詩人の中の詩人(ハイデガー)’という形容が、まさにふさわしい人物。古代ギリシアへのあこがれ、多感な感性をゆるがす希望と絶望の落差、連ねられた言葉の背後に飛翔する詩精神の高邁さ。‘ヒュペーリオン’の作者として、華麗すぎるほどに華麗な一面と、塔の中に起居した痛ましく不幸な後半生。詩人の背負った暗い宿命に沿って流れる、悲痛で陰鬱な通奏低音は、しかし、なんという優しさとたおやかさとにあふれていることであろう…!!
近年、いよいよ多くの書評で、作品論で、病跡学で、引用され、言及され、考察される機会がふえているように感じている向きは、おそらく多いこととおもう。どこか、ヘルダーリンの作品には、ひと時、狂気の詩神が乗りうつったかのような、通常の人智を超えた、精霊的、天才的な力が宿っているようで、その奥深さは何に比べようもない。わたしはあまり、詳しくはないのだが、それでもやはり、本作は、ヘルダーリンを、一番よく伝えるものではないだろうか…!?