まず、「国際理解」に大切なのは子どもたちに世界の多様性を教えることであり、安易な英会話の導入は「英語優越主義」を植え付ける危険があると、著者は警鐘を鳴らす。そのうえで、子どもが苦労なく外国語を身につけられるのは、その言語で日常的にコミュニケーションが行われる環境にいる場合であり、“早く始めるほど英語がよく覚えられる”というのは幻想に過ぎないと断言する。
では、小学校では何をすべきなのか。大切なのは言語に対する「意欲」と「感性」を磨くこと。具体的には、母語教育と連携して、言語のおもしろさ、豊かさ、怖さを教えるとともに、言語は人間に平等に与えられたもので優劣はないと気づかせることだという。豊かな英語教育、言語教育のあり方を冷静に考えていくためにも、著者の主張に耳を傾けるべきではないか。(清水英孝)
頁数はわずかに70という手軽さ。論理展開はいたって簡潔明快。日本の公立小学校で英語教育が一斉施行されるのではないかという思い込みをまずただし、その思い込みに振り回されて子供たちに国家規模の実験が行なわれようとしていることを指摘します。その実験によって将来起こりうる問題点、そして実験そのものが明確な目的も、そしてまた満足な道具も持っていないことをつまびらかにしていきます。
「日本人なら誰しも日本語ができる」という考え自体が実は根拠薄弱です。自分の考えを明確に説得力をもって提示することができる日本語の会話能力や、流麗で品位あふれる日本語を書く力は、日本人といえども日々の学習努力に負うところが大きいのです。昨今、インターネットで意味不明かつ時に暴力的なまでにすさんでいる日本語を目にするにつけ、だからこそ英語よりもまず日本語、と思わざるをえません。
最後に一点だけ本書の弱点を指摘しておきます。
著者二人が言語の認知科学や英語教育学を専門としていることが、本書を専門家向けの色合いが濃い本にしてしまったうらみがあります。関係代名詞の制限用法と非制限用法、音素識別能力といった言葉は、小学生の子を持つ平均的保護者には少々とっつきにくいものです。もちろんこのブックレットでも限られた紙幅の中でこうした専門用語を噛み砕いて説明する努力はしていますが、それでもこうした表現が登場した途端に本書は門外漢の読者をあっという間に遠ざける可能性が大きいと思います。ですからそもそもこうした表現を用いなければならなかったのだろうかという疑問は残りました。