この本自体が酒の肴。
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この本は、平凡社の写真本シリーズ「コロナ・ブックス」の創刊150号を記念して出版されたそうだ。荻窪から新宿までをはしごした井伏鱒二の愛した居酒屋、中上健次とゴールデン街、酒の飲み方がスマートな三島由紀夫は三つ揃えでかしこまる酒席、池波正太郎はそばで日本酒、山田風太郎は自宅でチーズの肉巻きにウイスキー、映画界の神話になった黒澤明のスタッフとの酒盛り、赤塚不二夫の宴会などなど……26人の作家の歩んだ個性的な「酒人生」が、当時の写真と証言、そして各々の著書の一節とともに、たっぷりと紹介されている。彼らはすでにこの世にいない。主人不在ながら、酒席に並ぶ酒と肴が彼らの温もりを感じさせて、今にも哄笑や怒号、激論が聞こえてきそうだ。「四六時中酒」や「すっぴん酒」、「アル中ハイマー酒」など、それぞれの飲みっぷりに合わせて付けられた副題が楽しい。私は残念ながら下戸だが、無防備な作家たちのポートレートや、彼らお気に入りの肴の写真を眺めていると、「さし」で一献傾けたくなってくる。作家と酒の切っても切れない腐れ縁を、貴重な写真と伝説で味わえる、本書自体が酒の肴になりそうな、ほろ酔い帳だ。