目からの情報
★★★★☆
表紙は鎌倉の渋澤龍彦宅の庭で氏の好物であったアマダイのから揚げを撮影した写真。
食べることを愛した作家たちの好んで通った店、自宅で夫人が再現した好物のならぶ食卓など、
まさに現地で撮影された写真を多数使って編集されている。
作家の美意識の集大成が文学作品であるのはまちがいがなく、その点で写真をみせてしまう
ことの功罪はあろう。
しかしそれにも勝って目からの情報というのは大きく、作家が書いた事だけでなく、あえて
書かなかったことまでもさらけ出してしまう。「火宅の人」壇一雄の団欒の食卓や、七輪で
自炊する永井荷風の写真はお宝。
ここに出ているレシピで料理してみる、お店を訪れる、「貧乏サバラン」「壇流クッキング」
・・・とここに出ているエッセーを片っ端から読んでみる・・・・そんな楽しみ方をしたくなる本。
あの永井荷風の愛した「大黒屋のカツ丼」はこれだったのか!
★★★☆☆
取り上げられた作家は、永井荷風、壇一雄、色川武大、澁澤龍彦、内田百ケン(文字化けするのでカタカナ)、谷崎潤一郎、池波正太郎、開高健、山口瞳etc。皆、故人だ。そして、食べることをテーマにした小説、エッセイを残している作家ばかりだ。
そんな作家達の日常の食卓を再現、そこに、ゆかりの人物の思い出が添えられた「作家の食卓」を中心として、ほかに、作家の好んだ料理屋等を紹介、そこにその店が取り上げられた作品の一説等を引用・解説した「好きな場所、愛した場所」、作家の好んだおやつを紹介した「作家のおやつ」、「食卓を巡るエッセイ」と称された4本のエッセイ(これは存命の人物)で構成されている。
コロナブックスには池波正太郎の食のエッセイに登場した店の料理を紹介、そこにその店が紹介されたエッセイの一文を添えた「東京のうまいもの」などのシリーズがある。イメージを膨らませながら文章をよむのが作家に対する礼儀であり、そこに実物の写真を添えるのは礼儀に反するような気もするが、文章と写真があわさることによって、「なんとしても食べたい!」と思わせるシリーズだった。
本書にはそこまでの力はなかった。こういうものを食べていたんだと、写真を眺めながら旨そうだなと思うに止まる。好きな作家、例えば色川武大、開高健であればそのエピソードも楽しめたが、著者自身のエッセイ等にはやはり敵わない。楽しめる作品ではあったが、どうしても「東京のうまいもの」シリーズを基準に考えてしまうので☆×3。
久しぶりにコロナブックスを購入したのだが、以前に比べて紙質が明らかに落ちている。このシリーズは写真が大事なのにこれでいいのか…。