経済史的には、工業化は西洋を中心に始まり、非西欧が取り込まれていく過程として描かれていた。しかし、本書の木綿の事例にあるとおり、アジア間競争が行われ、決して西欧の一方的な近代化に周辺が従属していく過程ではなかった。こうしたこれまでの歴史観の転換を行ったのが著者であり、先駆者として知られている。著者のこの業績は国内よりもむしろ国外で高い評価を受けている(著者の英文での著作物については国内で意外に知られていないが)。
本書はそうした彼のバックグランドを一般向けに書き直したものである。このため、やや厳密性を欠く記述もあるが、新書であるため致し方ない。また、これもいわば“川勝節”である。
現在では川勝氏が提起した歴史観は一般にも敷衍しつつあるが、91年当時!には非常に新鮮であった。これをさらに超えるパラダイムの提示が著者に期待される(現状ではまだのようだが)。