富士山のような国づくり
★★★★☆
近代西洋が産み出し20世紀を席巻した富国強兵に代わる文明として、美しい日本のたたずまいを、日本のアイデンティティであり象徴である富士山に見出し、富士の意味をとった富国有徳の文明を世界に提唱していました。
富国有徳における「富」とは、マルクスのとらえた労働価値説に基づく量的な商品集積の富ではなく、同時代のラスキンのとらえた「生なくして富は存在しない」という価値の受容者の受容能力に着目した質的な富として考えるべきであると説きます。また富国有徳における「士」として、都市生活者としての「市民」ではなく知識プラス人格を兼ね備えた有徳の「士民」を理想として掲げています。
「文化力」「文明の海洋史観」など著者の他著作の後に読んだこともあり、著者の秀逸な理論が築かれていく過程を垣間見た気がしました。特に今回本書を読んで改めて気付いたことは、著者が「対話」を重視されているのではないか、ということです。巻末にある今西錦司との対話を読むと著者の独創的な発想が生まれてくる過程をも読者と共有したいという強い知への気持ちを勝手に感じました。