短編でありながら内容の充実した小説。背表紙にある"his most famous and influencial work"には異論があるが、評価は人それぞれが行えばいいこと。一人の青年の生涯を通じて自己探求の過程(自己とは何か。それはどこから来て、どこへ行くのか)を追求したこの作品は、主人公シッダルタの生き方を通して既成の権威や価値観に捕われない、あくまで自己のあり方に忠実であろうとしたヘッセの生涯そのものである様に見える。その意味でこの作品は小自伝的要素を持つものではなかろうか。内容はバラモンの子に生まれ、類希なる容姿と才能に恵まれ将来を期待された青年が、無二の親友と共に家を捨て出家して旅の修業僧の仲間に加わり、やがて仏陀と出会う。そこで親友は仏陀に帰依し彼の下に留まったが、主人公は仏陀と袂を別ち、本来の自己を求めて更なる旅を続ける。.......というものであり、その後も波瀾万丈の展開が用意されている。訳文はとてもこなれていて読みやすく、分量も手頃(150ページ程度)で学生の副読本としても最適。