〈あの世〉の比較宗教学
★★★★☆
キリスト教・イスラーム・仏教それぞれの天国(極楽・浄土)/地獄観を比較考察し、さらにそれぞれの現代的な様相の一面についてわかりやすく論じた本である。各宗教の主張が簡潔にまとめられつつ、鋭い指摘が各所でなされており、宗教に関する教養書といった感じで読みやすい。「あの世」について多くを語らない共同体主義的な「民族(俗)宗教」から、個人の倫理性を重んじるがゆえに個人の逝く「あの世」の存在が詳しく記述される「世界宗教」へと「進化」していく筋道の説明など、非常に納得がいく。
近現代への展開については、キリスト教圏からは「私」重視のスピリチュアルな他界観の誕生とそうした風潮に対抗する原理主義の勃興が、イスラームからはジェンダーの問い直しと現代的なジハードの意味が、仏教からは若い僧侶たちの浄土観が紹介され、それぞれ考察は淡白なものだが議論自体は興味深い。今後の「あの世」のかたちをめぐる思考が刺激されるところ大であった。