現実に起こった事件(ヨークシャー・リッパーことピーター・サトクリフ)を下敷きにしているだけ、前作よりはわかりやすく思った。下敷きにしている、と書いたが別に犯人像や事件の真相に迫っている(マーダーケースブックみたいなドキュメンタリーになる)のではない。この本は、ひたすら事件の捜査にたずさわる刑事や新聞記者、そして被害者たる売春婦たちの物語であり、かつ、混沌の時代の物語である。
前作と同じ登場人物もおり、正義も良心も意味のない暗黒の世界に生きる様子は変わっていない。泥土のような腐敗した社会を泳ごうともがく彼らの姿は息苦しさを覚えるほどであり、繰り返し挿入されるおぞましい悪夢のイメージ、ランチをとることより気軽に行われる暴力とセックスは読み手の好悪のわかれる本であろう。
オビに〈読書界騒然!!〉と書いてあるのだが、読書界ってドコにあるの?